日中戦争、国共内戦、朝鮮戦争の戦場となった街で生まれ育った日本人少女・麻莉。10歳にしてようやく天津へと移り住み、瀟洒な街、華やかな文化、咲き乱れるジャスミンの花に包まれ、戦火のもとでおののき冷え切った少女の神経は癒えていく。
中国語もよくわからないまま小学校に編入した彼女を何かと助ける一見粗野な少年・葉飛。彼には出生の秘密があった。
彼と巡る天津の街。怪しげな路地。美しい蓮の花咲く公園。麻莉は葉飛といくつも季節を超え、大人になり、いつか彼の漕ぐボートに乗って、蓮の花びらに触れる夢を見る。
しかし、1953年。戦争とは無縁であった天津へも文化大革命の影が忍び寄り、嵐が麻莉の周囲の人々を連れ去っていく――。

刊行時、中国版「禁じられた遊び」と銘打たれた淡い初恋物語。ラストシーンが美しく印象的だが、意外に人々に読まれていない作品。非常にもったいないと思う。

「君らに賊を殺す心は有るが、回天の力はあるまい! 僕は死に場所を得た。快哉! 快哉!」

変法運動は敗れ、変法派を擁した光緒帝は西太后に幽閉され、大逆を犯した文秀は苦境に陥いるが、日本軍の協力を得て玲玲とともに日本への脱出を図る。
そしてそのふたりを、八人舁きの杏色の轎に乗った、大総管にまでのぼり詰めた春雲が見送った。
人は弱く、希みはあまりにも重く。みなを裏切り、多くを殺し、見捨ててまで生きることの意味。飢え、悩み、苦しみながら生き続けることへの懐疑を抱きながら河北から湖南まで放浪してきた王逸は、少年・毛沢東と邂逅する。

何億もの命を飲み込み、押し流しながら、最後の時代の幕が上がり、その向こうにある新しい時代が胎動を始める。
運命なんて、いくらでも変えられる。悠久の大地、天命のもとに建つ王朝の終焉と新生の奔流を描く群像劇、完結編。

袁世凱暗殺に失敗し、投獄された王逸のもとに食事を運ぶ少女・小梅。耳の聞こえない小梅に、王逸が教えた「宇宙」。その意味を理解した少女は、自分の命と引きかえに王逸を脱獄させる。ここにまたひとつ、宿命の星が人によって変えられた。
王宮では后党と帝党の対立が深刻化。帝党派である文秀は、西太后引退を画策する。
一方、春雲は西太后が心を許す世界でただひとりの人間となり、高級太監の地位を得るものの、血の繋がった妹・玲玲に会うことはかなわず、兄弟以上の固い絆で結ばれていたはずの蘭琴とも言葉を交わすこともないまま、ようやく富と豊かさとは何であるかを思い知る。
そして列強諸外国が清国分割を狙うなか、李鴻章がイギリスと香港租借条約の交渉に臨む。

互いの立場を違えたまま、清王朝崩壊の激流に飲み込まれる人々。革命とは、宿命が人を動かしなるものか、人が星を動かしなるものか。
春雲と文秀が歩む薄氷の道の行く先は。物語はいよいよ佳境へ――。

官吏となり政治の中枢へと進んだ文秀は、天津で彼らに予言を与えた白太太と再開するが、そこで春雲に与えられた予言は偽りだったことを知る。
いずれ親兄弟うち揃って白骨を野に晒す運命を告げることができず、しかし春雲可愛さゆえに白太太が与えた偽りの卦だと。
しかしその偽りは、確かに春雲と、その妹玲玲の運命を変えたのだ。
自ら浄身した春雲は、城を追われた廃疾の宦官たちが住む老公胡同で宦官として後宮へ仕官する機会を待ちつつ宮廷での作法や料理、役者の鍛錬に励んだ末に、奇跡的なめぐり会いを経て西太后の側近くに仕えることになる。
西欧列強に蹂躙される中国、崩壊してゆく清王朝。その斜陽から目をそらすように、西太后は観劇と飽食に明け暮れ、紫禁城内は守旧派と改革派に分裂し対立する。

人はただ宿命に翻弄されるものなのか。人には天上の星々をも動かし、自ら運命を切り拓く力もあるはず。
王朝の終焉と近代国家への革命。激動の時代を生きる人々の人間模様を描く2巻。

1948年、毛沢東率いる中国共産党の人民解放軍と蒋介石の国民党軍は、新国家の主導権を巡って激しい内戦を繰り広げていた。
連隊長グー・ズーティをはじめとした人民解放軍中原野戦軍第2師139団3営第9連隊は、その最前線に送られる。与えられた任務は、旧炭鉱の防衛。
そして、「集合ラッパが鳴るまでは、最後の一人になっても戦え」。
だが、圧倒的な物量と兵力をもつ国民党軍との交戦の中で、第9連隊の兵士は次々と命を落としていく。
瀕死の兵士は「ラッパの音を聞いた」という。しかし激しい戦闘の最中、至近距離で砲弾が炸裂したズーティの耳は聴覚を損なっていた。
「聞いた」と言う者がいる。「聞こえなかった」と言う者がいる。
ズーティは撤退の合図が出たという確信が持てずに部下を戦場に留め、そして。
連隊の兵士47名は戦死。ズーティだけが生き残った。
やがて内戦は終結。中華人民共和国建国。ズーティは戦死した国民党軍兵士が烈士として讃えられる中、戦場で孤立し全滅した第9連隊の兵士は、失踪者という屈辱的な扱いを受けている事実と、最後の戦闘の真相を知る。
ズーティは仲間の名誉を守るため、たったひとりで遺体の捜索を開始する。最期の地、今はもう変わり果てた旧炭鉱の、どこかに仲間たちが埋もれている――。

中国の国共内戦時代を背景に、生き残った老兵が、戦死した仲間たちの名誉回復に人生を捧げる姿を描く。
超人的な働きをする兵士がいるわけでなく、ズーティも完璧な連隊長ではなく、死は惨たらしくあっけなく訪れ、世の中は不公平で、親にもらった名前さえ何処かに失って、無数の無名兵士の墓標が大地を埋める。
ドラマティックでなんか全然ない、戦争の非情さと人生の過酷さを描く好編。

――昴は富と力の星。世界を統べる昴の星。

かつて宮中で易占を立てていたという星読みの老女から「あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう」との予言を授けられた貧しい糞拾いの少年・李春雲は、同じく過去に予言を授けられ、進士を目指す郷紳の次男・梁文秀に従って都へ上る。
文秀はみごと予言通り科挙に合格、政を司る官吏への道を拓く。
対して身を立てる術をなにひとつ持たない子どもに過ぎない春雲は、宦官になることを思いたつ。
しかし政治に関わる官吏と、天子の側に使える宦官が相入れることは許されない。
それは文秀と春雲が袂を分かつことを意味していたが、ほかに地獄のような貧困から逃れる方法などあるはずもなかった。
父や兄たちのように、のたれ死なないために。やつれはてた母と、不幸の正体すらわからずに無邪気に笑う幼い妹を救い出すために。
春雲は予言だけを信じ、いつか昴をその手に掴むと信じ、決して引き返すことのできない苦難の道を突き進む。

中国清朝末期を舞台に、波乱の時代を力強く生き抜く人々の群像劇、序章。

武芸百般に通じ頭脳明晰、しかも美貌の持ち主という文句の付けどころが無い女性、何玉鳳。
その実態は、過去に何個もの男の首を落としてきた伝説の忍者十三妹。
今では科挙合格を目指す美男の坊ちゃん安公子の第二夫人。
平凡な人妻の生活を満喫する…間もなく、方々で厄介ごとに巻き込まれる夫を毎回影から甲斐甲斐しく助ける日々。
更には彼女と浅からぬ因縁を持つ好敵手・白玉堂も登場し、風雲まさに急を告ぐ!!

アクション、のち時々昼メロ(未遂?)。
中国の古典小説に取材しつつも独自の世界が展開される、1966年に刊行された中国武侠小説の先駆的作品。

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