朝鮮紀行 (講談社学術文庫)

  • 講談社 (1998年8月10日発売)
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4

日本の近代史を学ぶ際に避けて通れないことが朝鮮との関係だ。その中でも、なぜ、日本が近代化に成功し、朝鮮が近代化に遅れたのか?それを解くカギを探したいと思い、この本を読むことにする。
当時、実際に現地を周り、観察してきたことが事実であり、史実としても中立的で価値あるものだと思う。
(政治については、著者の出身であるイギリスの視点からの捉え方が中心になるのだが)

・仏教は李王朝で16世紀には廃止されている。
日本と比較して、これが精神、モラルという観点では大きいのかもしれない。
当時の朝鮮は儒教、特に朱子学が浸透していたことで有名だが、裾野の広さ、という観点で仏教のような宗教が存在しなかったことは精神・道徳だけでなく、日本の寺子屋と識字率の高さとの関係のように近代化を遅らせた一つの要因になるのかもしれない。
一方、朝鮮はシャーマニズムが浸透していて、ムダン(巫女)は有名。シャーマニズムについては、近代国家に必要な合理的な思考を弱める作用があったともいえる。シーマニズムについても、本著では詳細に記載があり、面白い。

・固定的、且つ優劣が大きい身分制度も近代化を遅らせた大きな要因となる。
特に両班といわれる官僚組織=特権階級を『公認の吸血鬼』と形容している。
『朝鮮には階級がふたつしかない。盗む側と盗まれる側である』
また、この社会構造を支えてきたのが儒学(朱子学)であり、科挙制度でもある。
科挙制度の弊害は清国でも同様だ。
「両班は箸と本より重い物は持たない」と言われるが、明治国家は武士が官僚になっていった(江戸時代より)ことと比べても違いがあるのだろう。
明治時代の官僚は公を重んじ、清貧なところがあった。

・一方、著者はロシア地区で会った勤勉で自発的な朝鮮人も取り上げており、朝鮮の怠惰な朝鮮人は過剰に搾取されていた結果、当然起こりえることとし、決して民族の資質ではないとしている。(著者は、朝鮮が旧習を捨てれば、大きく成長する潜在力があるとする)

・当然のことながら、当時の日本と朝鮮の関係が気になるところ。日本は、上述のような朝鮮の旧習を変え、自国の例に倣い、朝鮮の近代化を進めようと試みていたことが読み取れる。それ自体は客観的に見ても、外圧として正しかったのだろう。
しかし、朝鮮人にとって日本人の評判が清国やロシアと比べても悪い。
これは文禄・慶長の役における日本人の朝鮮人に対する酷い仕打ちも大きく影響しているようだ。耳塚を例として。
また、日本は朝鮮を市場としても欧米を凌ぐ成功を収めていたことがわかる。
まさに戦争、植民地支配の裏には経済的な利害が大きな要因として占めるのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2021年3月10日
読了日 : 2021年3月10日
本棚登録日 : 2021年3月10日

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