一冊まるまるこれまでに鈴木敏夫さんが読んだ本について語り続ける内容。
宮本武蔵の哲学を掛け合わせた人間がいるとしたら、それはたいそう危険な人物なのでは?という話や、村上春樹の『ドライブ・マイ・カー』にみる、ふいに思い出す記憶の話が特に印象的だった。
また、あとがきで日本テレビの映画担当の方たちが、本心では宮﨑駿をテレビに出演させたいと考えている話があり、それを本人に持って行こうものなら、「けんもほろろ」に断られるに決まっている、ということで、鈴木さんに白羽の矢が立つ話を読んで、やっぱりそうなのなと腑に落ちる感じがして面白かった。
あとBack to the Futureの話は自分の中に落とし込んでおきたい。
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・日本のマンガ・アニメが欧米人に与えた影響がひとつあるとすれば、子どもたちの自己確立の問題でしょうね。アメリカにしろ、ヨーロッパにしろ、向こうの子どもたちは早くから自己確立を求められるじゃないですか。家庭でもそうだし、学校教育でも自分の考えを言葉にしたり、人の前で発表しなくちゃいけない。
それって内気な子にとってはつらいですよね。そういうとき、「そんなことできなくても大丈夫だよ」と慰めてくれるもの。それが日本のマンガ・アニメだったんじゃないですかね。(p.41)
・とくに考え込んだのが、武蔵が言った3つの言葉ですよね。「信ずるは己のみ」「我ことにおいて後悔せず」「人間本来無一物」。この3つの哲学を兼ね備えた人間がいたら大変なことになる。中学2年のときからすでに怖いと思っていましたね。(p.67)
(中略)その精神がどこへ引き継がれたか:『巨人の星』『あしたのジョー』(p.68)
・ぼくはあの作品(ドライブ・マイ・カー)は嫌いじゃなかった。忘れられない記憶というものがある、というやつでしょう。理屈でもなんでもない。忘れられないんだから。それをふいに思い出す。そういうのとは誰もがいろいろな形で経験しているわけで、それをテーマにずっと書き続けていくというのもいいんじゃないですかね。(p.247)
・あるとき本棚の整理をしていて、なんとなく紀貫之の『土佐日記』を読み始めちゃったことがあって、気がついたらすっかり読みふけっていて、慌てて閉じた覚えがある。「もったいない」と思って封印したんです。いま読むと仕事をする気がなくなる、人生が終わる。そんなふうに思ったんですね。(p.275)
・『歩きながら考える』の中に、堀田善衛「未来からの挨拶ーーBack to the Future」。
「ところで、この一句につけられた訳註によると、古ギリシアでは、過去と現在が(われわれの)前方にあるもなであり、従って(われわれが)見ることの出来るものであり、(われわれが)見ることの出来ない未来は、(われわれの)背後にあるものである、と考えられていた、というのである。
これをもう少し敷衍すれば、われわれはすべて背中から未来へ入って行く、ということになるであろう。すなわち、Back to the Futureである」
読書とは、本という過去を読んで、現在の自分を見つめなおすことだと思う。そして本棚にはその人の過去がある。(p.292)
- 感想投稿日 : 2023年12月3日
- 読了日 : 2023年12月3日
- 本棚登録日 : 2023年12月3日
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