ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム

  • 日経BP (2017年3月23日発売)
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感想 : 27

 たくさんの切り口があるなかで、何の本なのか、と言う題目は最高位にあると言っていいだろう。たとえば、あなたが友達に本をすすめるとき、あるいはあなたが作家で自分の作品を紹介するときに、真っ先に訊かれるのは「それは何の本なの?」ということだろう。伝記作家でもないかぎり、だれについての本なのか、舞台はどこなのか、いつの時代の話なのか、と先に訊かれることはないはずだ。先立つのは主題への興味である。そこから当然の疑問が生まれる。人の心をつかむトピックとはどういうものか?(p.50)

 単語の意味は文脈のなかにあるということだ。「セックス」「ドラッグ」「ロックンロール」もこのセクションの見出しとして描かれていれば、「ジェンダー」「アスピリン」「海辺の楽しみ」と同じ意味でとらえられるかもしれないが、文脈からここでは違うということがわかる。(中略)コンピューターはすべての他の語を文脈のなかで見ることを学ぶ。このように単語を大きな文脈で理解するようにつくられたアルゴリズムをトピック・モデルという。(pp.60-61)

 ふたりのベストセラー作家がわたしたちに教えてくれるのは、読者をひきつける大きなトピックがあるということ、それから、2番目以降のトピックは現状を脅かすような衝突を示すものがいいということだ。まったくつながらないばらばらなトピックを配するのはよくない。たとえば、1番目がセクシュアリティーで、2番目がガーデニングといったトピックだと、読み手を引きつける物語は期待できないだろう。その点、ベストセラー作家は抜かりがない。たとえば、子どもと銃、信仰とセックス、愛とヴァンパイア。いずれも実際に売れている。(p.85)

 読書をしているとき、本が単なる研究対象ではなくなる瞬間がある。どこか別の世界に連れて行かれて、説明できないある種のトランス状態に陥る、といったらよいだろうか。マルセル・プルーストが「孤独のただなかにあってもコミュニケーションを完結させることができる奇跡」と評した読書にどっぷりつかってしまい、研究対象であるはずの本に理性的に向き合うことができなくなってしまうのだ。そうなると、本が、文章が、そして読んでいる自分自身までもが変質し、「わたし」はそれまでとは違う何かになり、それまで浸ったことのない思考のなかに入りこむ。読書といえば、プルーストのマドレーヌのように思いだす、本によって感情の深いところを揺さぶられる感覚は触知できるものではないが、きわめて身体的なものでもある。(ジャニス・ラドウェイ、p.120)

 コンピューターが人間よりも賢くなるというのなら、それは機械的に記憶し、蓄積した事実や情報で測った場合の話である。それはいわゆるブックスマートな人のスキルであって、小説家のスキルではない。小説家に求められるのは創造性や批判的な思考能力である。コンピューターで書いた文章は、短いものなら意表を突かれて面白く読める。おそらく、コンピューター・ライティングの理想というのは、そのあたりにあるのだろう。(p.301)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年1月25日
読了日 : 2019年12月30日
本棚登録日 : 2019年12月30日

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