星の涯の空 上 (創元SF文庫)

  • 東京創元社 (2014年2月28日発売)
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感想 : 5
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 『遠き神々の炎』の19年ぶりの続編。銀河の中心に近づくほど知的生命の思考が困難となり、超光速航行もできなくなる。という設定の宇宙。邪悪意識、すなわち奇形体が復活し、銀河を蹂躙する。奇形体を倒す方法を得るため、超光速航行もできない「低速圏」の「鉄爪族」の支配する惑星にたどりついた人間たち。そこで太古に仕掛けられた罠で奇形体を倒し(たと思われるのだが、「低速圏」にいる主人公たちには実際どうなったかはわからない)、奇形体に操られた追撃艦隊は低速の空間に囚われて、「鉄爪族」の惑星に到達するには数千年かかるだろう、という解決をみたのが前作。
 しかし、ただひとりの人間の大人ラヴナと冷凍冬眠でこの惑星に到着した子どもたちは中世レベルの「鉄爪族」の惑星に取り残されてしまい、そこから科学文明を築きあげねばならない状況に陥っている。鉄爪族は犬に似た生物だが、数個体がひとまとまりとなる集合知性の生き物である。4〜6個体でひとつの意識を形作り、人間の手のような器官はなくとも、数個体が前足や口を協働することで対処している。1個体では犬並みの知能でも数個体の脳でネットワークを組めば高い知能が生まれるというわけだ。そしてそのネットワークは思考音といわれる音声によって構築されている。

 この鉄爪族の設定があまりに面白く、作者は続編を書く気になったのではないだろうか。そしてその続編は鉄爪族世界での人間を巻き込んだ中世的権謀術数が主たるストーリーとなっている。舞台は前作の終結から、2年後、3年後が描かれた後、10年後に飛ぶ。冷凍冬眠していた子どもたちも青年となっている。
 ラヴナは共同女王として鉄爪族の女王・木彫師とともに木彫師領を統治しているが、数千年後にやってくる追撃艦隊を迎え撃つために、鉄爪族世界のテクノロジーを発展させることを中心課題と思っている。彼女の盟友は、ラヴナの救援まで鉄爪族世界で1年を過ごした姉弟の姉のほう、ヨハンナと、木彫師の配偶者である巡礼。木彫師は若い個体を群れに加えたことで精神的に不安定となっており、ラヴナとの関係がギクシャクしている。
 かつて木彫師に作られた優秀な群れだったが、彼女を裏切ったペンダシャスは東家市の大富豪に取り入って、スパイを送って木彫師領の若い人間たちに影響力を及ぼそうとしている。
 専制軍事国家の頭領だった斬伐者はいっけん軟禁に甘んじているが、ラヴナにとっては常に敵か味方かわからないトリックスター的存在である。ヨハンナの弟イェフリと彼の親友の鉄爪族アムディを手なずけているらしい。
 この続編ではじめて言及されるのが、熱帯種の存在である。熱帯地方の鉄爪族だが、群れを作って集団知性を形成することなく、単独個体が多数寄り集まって生活しているため、知能では動物並である。思考音によって個体同士が交信することで集団知性を生み出す鉄爪族にとって、単独個体がめちゃめちゃに思考音を発しているこの集団に紛れ込むことは知性の喪失を意味しているのだ。この熱帯種が大きく物語に関わってきそうなのだ。

 様々な思惑が乱れるなか、10年間の一定の安定状態が激動へとさらされる。上巻ではラヴナ−ヨハンナ・チームが危機に陥っていく。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サイエンス・フィクション
感想投稿日 : 2016年2月12日
読了日 : 2016年2月12日
本棚登録日 : 2016年2月12日

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