評価:★★★★☆
この映画の主人公はロサンゼルスで古着屋を営むティエリーというフランス人。
趣味が高じてストリートアーティストたちをビデオ撮影していたティエリーは、やがて絶対に接触不可能といわれるバンクシーを録ってみたいと思うようになります。
ちょっとした偶然が重なってバンクシーとの接触に成功したティエリーは、持ち前の図々しさと人の良さでバンクシーの活動を撮影することを許可されます。
共に行動する中でティエリーを信頼できる男と認めたバンクシーは、彼に撮り貯めた映像を使ってストリートアートのドキュメンタリー映画を作ったらどうかと提案。
ティエリーも尊敬するバンクシーの提案とあって嬉々として映画製作に邁進するのですが、出来上がった映画は散々たる出来。
尊敬するバンクシーに言われたとあって嬉々として映画製作に邁進するティエリーですが、出来上がった映画は惨憺たる出来……。
ティエリーの映画監督としての才能を見限ったバンクシーは、軽い気持ちから彼にストリートアートをやってみたらどうだと勧めます。
バンクシーにしてみたら小さい個展でも開いてみれば、くらいの気持ちで言ったつもりが、ティエリーは舞い上がりまくって経営していた古着屋を精算、バイトを雇って他人のアート作品をパクりまくった作品を山ほど製作、ストリートアーティスト「ミスターブレインウォッシュ(MBW)」と名乗り、ドデカイ会場を借りて一大アートショーを企画してしまいます。
最初は勢いで突っ走っていたティエリーも事故で足を折ったことで我に帰り、これは大変なことになったとバンクシーに泣きつきます。
ところがバンクシーに宣伝コメントを貰った途端、さっきまでベソをかいていたのが嘘のように勢いを取り戻したティエリーは、そのコメントを使って大々的な広告を展開。
バンクシーのコメントの効果は絶大でショーは大成功。
MBWは「ウォーホルの後継者」と持て囃され、アート界の大スターになってしまったとさ。
……というのがこの映画のあらすじです。
この作品は、英国出身の知る人ぞ知る“覆面”グラフィティアーティスト、バンクシーが初めて監督を務めたドキュメンタリー映画です。
バンクシーがやっているアートは、街中の壁などにスプレーで絵を描くいわゆるストリートアートと呼ばれるもので、こういった行為は基本的には器物破損などといった違法行為に当たります。
最近はアートとして認知されて容認されることもあるようですが、基本的には顔がバレると逮捕されれたり、街で見かけられただけで警戒されてしまったりするので顔バレNGなわけです。
僕はポップアートに関しては全くの門外漢なので、バンクシーがこの映画を通じて暴こうとしたアート界の欺瞞や、批評家たちへの批判というものがどの程度妥当なものなのかはよくわかりません。
むしろ僕がすごいなと思ったのは、バンクシーという人が彼の置かれている立場からその批判を行ったことです。
アート界の人たち(画商、批評家、ファン)がオリジナリティのない作品を手放しで評価していることに対して批判を行った場合、絶対に「お前だってそいつらに評価されて、作品を売ってメシを食ってるんだろ」という批判がブーメランのように返ってくるのは避けられないでしょう。
それを承知でこういう映画を撮るということは、全く利害関係のないジャーナリストが行う批判とはまた違った迫力というか、決意のようなものを感じます。
いや、はっきりいってくそ真面目なくらい誠実ですよ。
MBWは実際に成功して、マドンナのベストアルバムのジャケットデサインなども手がけているようですから、それこそバンクシーと同じくらい儲けるレベルまでになってしまったわけです。
映画の最後の方でMBWと保とと分かつようなことを言っていることを含めれば、「バンクシーはMBWをやっかんでるんじゃないか」と邪推されることだってあるでしょう。
でも、そういうのを全部飲み込んだ上で、それでも言わなきゃいけないことがあると思ったからこそ、この映画があるんだと考えると、ストリートアートに限らず、バンクシーのアート界全体への愛、みたいなものを感じずにはおれないなぁ、と思っちゃったりする次第です。
この映画は見終わるといろいろと考えたくなる映画ですが、見ている最中はただ単純に面白い映画です。
ストリートアートがどんなもんか知ることもできますし、裏事情を垣間見たりできるのはなかなか貴重な体験だと思います。
ぜひ、見てみてください。
- 感想投稿日 : 2016年5月15日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2016年5月15日
みんなの感想をみる