天上の虹(4) (講談社漫画文庫)

著者 :
  • 講談社 (2000年3月10日発売)
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本棚登録 : 148
感想 : 10
5

中大兄皇子亡き後、有力な後継者である彼の長男、大友が自殺。
大海人が新しい天皇となり天下を治める事となる。
それにより、大友と結婚していた十市と彼女を想い続ける高市は晴れて結ばれると思いきや・・・彼らの立場がそれを許してくれない。

大海人が飛鳥に戻り、新しい宮殿を建築する中、皇后となった讃良は夫の妻たちに嫉妬するよりも皇后として接し、その子供たちすべての母になろうと決心する。
それなのに、讃良は自分の子、草壁を跡継ぎにするために画策しているという噂が立ち、その噂に傷つく讃良は体調を崩してしまう。

讃良は思う。
自分の夫である大海人は天性の人徳があるからこんな噂は立たないだろう。
という事は自分はそれがない?
自分が人に与える印象がそういう噂を立たせるのではないか?
そう。
権力者で冷たい自分の父親、中大兄皇子のように・・・。

夫を政治的手腕で支えるという、他の妻たちには出来ない事をし、皇后という位で保たれるプライド。
でも夫に愛されてないという思いは彼女の心を頑なにさせ、冷たいイメージを周囲に与えるようになったのだと思う。
普通の女性ならそんな孤独感や惨めさにとっくに押しつぶされていたかもしれない。
でも彼女は持ち前の強い性格で何とか自分を支えてきた。
だけど、その強さも打ち砕かれ、弱気になった事で倒れてしまった。

讃良の亡き姉の娘、大伯は綺麗なものを見て欲しいと思った時、心の中で母親に聞くと言う。
すると、
「大伯-。それはあなたの人生にとってほんとうに必要なものなの?
人間にとってほんとうに必要なものはたった一つだけよ
欲しいものをつぎからつぎへと手に入れることに慣れてしまうと・・・
いつか自分のほんとうに欲しいものを見失ってしまうわ」
という母親の声が聞こえるのだと言う。

そんな人ですら生きていた頃は嫉妬に苦しんでそんな自分に自己嫌悪を抱いていた。
姉に「愛されたがりやさん」と呼ばれ、「もっと、もっと」と望む讃良にとって、たった一つだけのものである「愛」が得られないというのはどれだけ心にポッカリと穴をあけていただろう。
愛の代替を他に求めて一瞬は満足しても空しくなるだけ・・・。

この文庫版のあとがきに、読者から「悪女の讃良をこんな立派な女に書いて許せない」といった手紙がしょっちゅう届いていたとありました。
でもこのマンガを読んで、作者は歴史を詳しく勉強されているし、その中で自分なりの解釈で作品を作り上げるというのはあって当然だろうと思いました。
教科書の内容もちょこちょこ改訂されるように、結局細かい部分の事実は想像に頼る部分も必要なのだろうと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 少女マンガ
感想投稿日 : 2013年7月9日
読了日 : 2012年8月22日
本棚登録日 : 2013年7月9日

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