実力も運のうち 能力主義は正義か?

制作 : 本田由紀 
  • 早川書房 (2021年4月14日発売)
3.84
  • (130)
  • (193)
  • (125)
  • (25)
  • (11)
本棚登録 : 3375
感想 : 196
4

「能力主義」の是非を問う一冊。課題の出発点は、いわゆる社会的エリートと言われる人々は、自身の地位や仕事の業績は「努力して能力を磨いた」からだと言う。その地位を手に入れるために超有名難関大学に入学・卒業できたことも「受験勉強を頑張ったから」と言う。身分や人種ではなく、努力の上に成立していると言う主張。一方、難関大学に入学できるのは、一定の世帯収入がある家庭の子女がほとんどであり、最下層からのしあがることはほとんどない(この傾向は日本でも見られる)。これにより、社会的地位が固定し世襲化する能力貴族社会が到来している。つまり、「高等研究・高等教育機関であり、努力の結晶・成長のきっかけを掴む場所・誰に対しても能力を生かす学びを提供する場所」である大学が序列メーカー・世襲能力貴族の製造装置となっていると言う現実。

では、真に才能や努力のみを評価し、それに報いる報酬体系を実現することが幸せな社会かというと、これは別な話。むしろ、この社会で結果を出せなかった人は、それを運や家庭環境、DNA、人種や性別が理由ではなく、純粋に本人の努力が足りなかったからというレッテルを貼られる、むしろ究極の格差肯定・差別社会となる危険性を孕んでいる。

サンデル教授の解決策は、水平的多様化を尊重し、共通善や道徳教育から出発すると言うもの。さすが共同体主義者と思うし、わからないでもない。前半でこれだけ課題と現状を分析した割に、解決策としては抽象的でやや物足りないが、米国だけでなく、日本でも定着しつつある格差社会や政治の機能不全を原点から学ぶことから始めないとということか。

個人的には、努力に報いる・頑張った奴が出世するということについては全面的に賛成。ただ、同時に全ての個人の尊厳を尊重するということは別問題として考えなければならない。どう頑張ってもできないことで、人としての尊厳を損なわれるのは受け入れられない。植物の種がたまたま落ちた土地で芽を出し、日当たりの良い場所だなあと思っていたら、建物が建っちゃって陽が当たらなくなることだってある。もちろん努力はするのだが、置かれた場所で咲くしかないのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年7月5日
読了日 : 2021年7月5日
本棚登録日 : 2021年5月18日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする