台湾とは何か (ちくま新書)

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  • 筑摩書房 (2016年5月9日発売)
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「親日国(地域?)台湾」。これが多くの日本人が台湾について語る言葉である。しかし、著者が指摘するように、残念ながら多くの日本人は、台湾の歴史(特に日本との関係)を理解することなく、ただ「思考停止」しているというのが事実ではないだろうか。台湾を等身大の台湾として理解するための入門書。これが、本書の位置づけのようである。

台湾の歴史は複雑だがその分面白い。500年前まで南島語族の先住民族の居住地だったが、16世紀以降、福建系・客家系の南方系漢民族など新たな族群が渡来。「海洋アジア」と「大陸アジア」などが混在する多様性に富んだ民族構成になっている。日本統治50年の結果、日本文化に造詣が深い日本語話者も少なくない。
日清戦争(1894-95)、辛亥革命(1911-12。1912年1月1日南京に中華民国成立)、日中戦争(1937-45)、国共内戦、東西冷戦という、東アジア世界を大きく変えた近現代史の大事件に、台湾は深く絡んでいる。台湾はアジア世界の縮図のような国なのである。

国連との関係も注目すべきだ。常任理事国は国連憲章で規定されており、今も中華民国(The Republic of China)が含まれているのである(第5章-第23条1)。
The Security Council shall consist of fifteen Members of the United Nations. The Republic of China (略) shall be permanent members of the Security Council.
1971年に中華人民共和国が加盟を果たそうという時、蒋介石総統はアルバニア決議「国際連合における中華人民共和国の合法的権利の回復」(10月25日)を不服とし、国連を脱退。中華民国の立場を中華人民共和国が引き継いだ形となっているのだ。

尖閣諸島問題について、中国人の領土認識では、尖閣諸島は台湾の一部であり、台湾は中国の一部だから尖閣は中国の一部という論法らしい。そもそも、台湾には中国の権限が及ばないはずなのに。その一方、1895年に無主地である尖閣諸島を「沖縄県」に編入した事実を記載しないのは、明らかに元朝日新聞記者としての偏向の表れだ。

台湾の独立問題で重要なのが「92年コンセンサス」。これは「中国と台湾がお互いひとつの中国を否定しないことを信頼関係の基礎とし、ひとつの中国がそれぞれ同床異夢であることはあえて問題視しない」という確認事項である(p.186)。民進党はこのコンセンサスは存在しないとする。
台湾の独立は、「理想主義」と「現実主義」の対決とも読める。しかし、国民党の「現実主義=現状維持」という言葉によって人を感動させることはできるであろうか。一方民進党は、「いずれは独立」という「理想主義」を持っている。最近は「天然独」と呼ばれる、生まれながらの独立派が増えている。彼らには独立の「理論」はない。ただ「台湾は台湾だ」と考える。
台湾の行く末は、日本に大きな影響があるだけに、思考停止ではいられない。問題は国民だけではない。日本の左派・革新勢力(野党)は台湾との付き合い方において定見を持てず、軸足が定まらないことも問題を大きくしているのだろう(p.254)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: グローバル
感想投稿日 : 2018年10月7日
読了日 : 2018年10月7日
本棚登録日 : 2018年10月6日

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