家族相互作用―ドン・D・ジャクソン臨床選集

  • 金剛出版 (2015年4月15日発売)
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精神分析から家族療法をつなぐ重要な人物。精神分析をひたむきに学び、だからこそ批判的に捉え、次世代の心理療法へとつなぐことができた。彼が生み出したことばの数々によって、家族療法が支えられている。
精神分析ではそのモデルは個人内にとどまり、家族の存在は道徳規範の一部やエネルギー論のはけ口としてあるだけであった。だから、どうしてもひとりの人間ではどうにもならない、そんな事態に為す術が無かった。幼少時の親子関係、抑圧された感情、それらはすべてひとりの人間の中で構築されてきた。
彼がそんな療法に身を浸しながら考えたのは、なぜそれでもひとは共にあろうとするのか、という点である。実現するはずの無い願いを抱きながらもどうしてお互い関係しあっていられるのか。もしかしたら、その願いが相手の行為によって部分的に実現している部分があるからではないか。彼は考える。
では、どうやって、互いに関係しあっているのか。どうやって相手の願いを知ることが出来るのか。それこそ、家族相互作用に他ならない。家族が共有する歴史とは、家族の関係性以外の何者でもない。ことば、行為、関係性は人間のあらゆる行いによって生み出される。そして、その関係性こそ歴史の中でつくられるものだ。
ならば、病的な関係は長い時間・関係性の中で生み出されるはずである。そこに心理療法としてメスを入れるのだから、並大抵のことではうまくいかないはずだ。そこで彼は精神分析で用いられるように、病的な関係をまず明らかにするところから始めた。その上で、病的な関係ではない上手くいっている関係性を拾い上げたり、今までとは違う変化している部分を引き出すことで、新しい関係性の構築を目指す。
彼がどんな心理面接を行ってきたか、面接の語録を見るだけではうかがい知ることが出来ない。彼は、関係性というものを書くことのできる文字に限定していないからだ。心理療法は、ひとが行うものである。そうである以上、彼の打ち出した概念や文字の上だけで操作が踊らないことを、どこまでも実践家である彼は願ってやまなかったに違いない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 心理学・科学
感想投稿日 : 2016年1月19日
読了日 : 2016年1月19日
本棚登録日 : 2016年1月19日

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