新しい価値観を持った 「シンプル族」 という消費者の実態を研究し、一冊の本にまとめたことは素晴らしいと思う。マーケティングの観点でも社会論・文化論の観点でも学ぶことの多い書である。
その一方で、インタビューの対象が女性9人に対して男性2人と偏りが見られたり、一定数いるはずの 『 モノに執着する若者(オタク族) 』 に一切言及していなかったりと、検証過程に疑問が残るのも確かである。
全体的には面白く読めたが、以下の部分が引っかかり、評価は低いものになっている。(P26)
【 余談だが、先日NHKのドキュメンタリー番組で「オレオレ詐欺」をしている若者を取材するというものがあった。それを見ると、彼らは詐欺で稼いだ金でキャバクラで豪遊し、「 金持ちになって、いい女と、うまいもん食って、でかい家に住んで、でかいクルマに乗りたいね 」 と言っていた。これを見て私は、こういう価値観の若者ばかりなら日本企業も安泰なのになと思った。もちろん詐欺をするのがよいというのではなく、金持ちになって、いい女と、うまいもん食って、でかい家に住んで、でかいクルマに乗りたいという欲望をもっと多くの若者が持てば消費が伸びることは間違いない。そうすれば企業は成長するだろう。しかし逆にいえば、今や、オレオレ詐欺をするような若者でなければ、こういう欲望を持たない時代になったのだとも言える。 】
著者が伝えたいことはわかるが、コツコツ貯金してきた高齢者の大切な金を騙し取っても良心が痛まないような 「犯罪者」 を引き合いに出すのは間違っている。著者はこのドキュメンタリー番組を観ながら被害者の気持ちは考えなかったのだろうか。著者がマーケティング・アナリストという職業柄、このような犯罪までも日常的に思考の “ヒント” にしているのだとしたら、おぞましいとしか言いようがない。このような話をどうしても伝えたかったのなら、「 物欲でギラギラしている21歳のA君 」 などの設定で書けばいいではないか。「 今や、オレオレ詐欺をするような若者でなければ、こういう欲望を持たない時代になった 」 などという極論も開いた口がふさがらない。あまりに浅はかな見解である。
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- 感想投稿日 : 2013年2月10日
- 読了日 : 2013年2月10日
- 本棚登録日 : 2012年3月12日
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