未来の考古学 第二巻――思想の達しうる限り

  • 作品社 (2012年12月14日発売)
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20150705 未来の考古学2 

 読むのに知的体力のいる、SF評論の詰め合わせ。
 興味があり、好きな作品でもある「闇の左手」を論じたのがあったので、そこだけ抜粋。
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「ル=グウィンにおける世界の縮減」

「闇の左手」はグゥィンのハイニッシュ・ユニバースの一作である。惑星<冬>とよばれるまさに極寒の地が舞台であり、そこにすむ人々は一風変わっている。彼らは、「ケメル」とよばれる短い発情期をもつ両性の人々である。
その惑星に惑星連合からの使者が降り立ち、彼は政治闘争に巻き込まれ、逃避を余儀なくされる。

グゥィンは徹底的な抽象化、単純化し、現実を希薄化する手法(この著者は「縮減」と呼んでいる)を用いて、世界を設定している。
となると、彼女はなぜ極寒の惑星<冬>を設定したのか。
他のSFでみられる「熱帯=自立性の溶解」を表していることを鑑みると、惑星<冬>の極寒は、自律性の肯定もしくは、孤立を表している。
同時にそこにすむ奇妙な人々にも焦点が当たる。
短い「ケメル」とよばれる発情期のみを持つ、両性の人類を描くことで、性分化の脱神話化を試みたのではないか。
また、惑星<冬>は高度な機械化文明を持ちながらも、それが商業に結びついてはいない。彼女はここでも思考実験として、テクノロジーと資本主義の分離を試みた。
「闇の左手」は、「ユートピア」そのものではないが、そこに向かう衝動を表している。
それは、性や歴史、文化的余剰や人間的生、物質世界などに煩わされていない「やすらぎ」を求めた結果である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年12月22日
読了日 : 2015年7月5日
本棚登録日 : 2018年12月22日

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