マルタ島に魅せられて: 地中海の小さな国

著者 :
  • 晶文社 (1997年8月1日発売)
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本棚登録 : 24
感想 : 4

【概略】
 児童精神科医と養護教諭の夫婦が2年間、滞在したのは、イタリア、シシリー島の南に存在するマルタという国。地政学的にもヨーロッパ・アラブ・アフリカに等しい距離感で、且つ熱狂的なカソリックの国、マルタで過ごした2年間を、生活習慣・宗教観・国民性といった様々な分野から紹介してくれる。

2023年02月17日 読了
【書評】
 マルタで英語落語のお仕事を頂きたくて、「まずはマルタのことを知らないと!」と手に取ってみた。1997年初版だから25年経過してる。今の25年は相当に変化の激しい25年だと思うけれど、それを差し置いても読んでおくべきと思って読んだよ。
 人は環境によって変化する、じゃないけれど、国は環境によって変化する、ということを感じた一冊だった。1974年(自分が生まれた年!)に共和国となったマルタは、独立したのは1964年、それ以前には、各大戦の影響どころか、世界史のうねりに常に影響を受けてきていることがわかる。そしてロードス島包囲戦などをはじめとした、マルタ騎士団(聖ヨハネ騎士団)の活躍と、それに対する誇り、歴史のうねりは、その国民性に良くも悪くも影響を与えるよね。カトリックの優等生という点も。
 地中海の風土を下敷きにした生活、そののんびりとした、時間の流れがゆったりとした生活は、追われている自分には眩しく感じるね。その反面、マルタ・タイムと呼ばれるおおらかな感じ、許容できるのかなぁとも思ったりする。そして、親と子という単位どころか親戚にまで膨らむ家族単位は、渦中にいる人にとっては時に息苦しく感じることもあるだろうなぁと想像する。矢沢永吉さんがその著書に「一番信用できないのは、親戚だ」みたいなことを書いてたらしいのだけれど、色々な助けになってくれる反面、悪いことはできない(=一族の恥となりやすい)みたいだ。朗らかな村社会、といったらいいのかな。文面からは陰湿さは全く感じなかったけどね。
 著者の文体がすごくわかりやすく、バランスよく詩的でロマンチックな表現を入れてくれてて、まるでこの本自体が地中海の風を感じさせてくれる。ごめんなさい、人生で一度も地中海の風を感じたこと、ないのだけど。それでもマルタの空気感を凄く想像しやすい流れを作ってくれてる。「マルタ人と、ことをかまえるな」といったくだりをしっかりと書いてくれてることで、さらにこの本の確度を上げてくれている。著者のご主人が大慌てで海水浴から戻ってきて「彼ら(マルタ人)は立ち泳ぎしていない!立った状態で浮いてる!」という発見をしたくだりも、ツボだったね。
 この本を読んで、マルタへ一層行ってみたくなった。マルタの方達の前で英語落語を一層披露してみたくなったよ。この本で描かれたマルタから25年経ってどんなマルタになっているかわからないけど、自分自身で体感してみたいね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2023年2月17日
読了日 : 2023年2月17日
本棚登録日 : 2023年2月17日

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