表題にある『中古典』は著者の造語。
その中古典の定義付けを語る前にまず触れなくては
いけないのは『古典文学』の定義。辞書には上代(奈良時代)〜近世(江戸時代)の文学とある。ということは近代、即ち明治以降の漱石や鷗外の作品は含まれず、近代文学に属する。ただ現代人の感覚では十分古典の範疇に属している。
その感覚の違いを踏まえ、著者は、古典文学とは
『長きにわたり読み継がれ、普遍的価値を保有する作品である』と定義付ける。
さてというかようやく肝心な中古典の定義…
◉近代以降の60〜90年代の作品で、歴史的評価が
今のところ定まっていない。
◉上梓当時よく売れ、世間の注目を集めた。
以上、この条件に合致した計48冊が俎上に載る。
中身は小説・エッセイ・ノンフィクション・評論等
ジャンルは多岐に及ぶ。特筆すべきは、小説の多くは『青春小説』が14冊と占有率が高い。純文学の主題は『いかに生くべきか』に照らせば、青春小説が多いのもさもありなんである。
その青春小説…
『赤頭巾ちゃん気をつけて』〈庄司薫〉・『どくとるマンボウ青春記』〈北杜夫〉・『キューポラのある街』〈早船ちよ〉・『されど 我らが日々』〈柴田翔〉・『青葉繁れる』〈井上ひさし〉・『青春の蹉跌』〈石川達三〉・『二十歳の原点』〈高野悦子〉
『ノルウェイの森』〈村上春樹〉・『スローなブギにしてくれ』〈片岡義男〉・『桃尻娘』〈橋本治〉
『四季・奈津子』〈五木寛之〉・『なんとなく、クリスタル』〈田中康夫〉・『キッチン』〈吉本ばなな〉・『極東セレナーデ』〈小林信彦〉。
『赤頭巾ちゃん気をつけて』〜『ノルウェイの森』までの作品は60年代が舞台だけに学生運動との関わりが直接的であれ間接的であれ作品に影を落とし、悩める青年群像が描かれている。
70年代半ば以降となると、青春そのものが多様化し
『いかに生くべきか』の反動ゆえか悦楽化へシフトしボーイミーツガールが話の中心となる。
著者は『はたしてその本を今も読む価値があるか
どうか』の一点で論じ、最後にその評価を〈名作度〉と〈使える度〉の2つの観点から星印で評価を下す。
本作でも寸鉄人を刺す舌鋒でドライブ感を伴いながら小気味良く論じていく。先見を讃え、目を細め眩しいと感慨を抱く一方で、白けたと呟き、恥ずかしいと嘆く。その評価に至る論理の畳み掛けが、独善に走らずストンと腑に落ちる。
本書に取り上げられている作品はいずれもベストセラー。ただあくまでもそれは当時であり、あたかも現代と地続きのように思いがちだけど、『あゝ、この本あったよなぁ〜』と隔世の感ありありの本も多い。
『一昔前のベストセラーの賞味期限』を判定する本書。平たく言えば『読書界懐メロ本』。50代60代のニューミュージック世代にはたまらない一冊になること太鼓判押します!
- 感想投稿日 : 2020年10月4日
- 読了日 : 2020年10月4日
- 本棚登録日 : 2020年10月4日
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