研究論文のため、ODAについて深く学ぼうと手にとった本。あまり詳しくなかったため、ODAの基礎をと期待。ODAについての書籍はあまり豊富ではない。渡辺氏の中公新書のODAについての本と本書が最新(と言っても2000年代前半だが)の入門書のようだ。
本書はODAについて懐疑的。新聞記者だった著者の経歴もあり、非常に読みやすい。若干繰り返しが多いのが気になったが、それでも全くの初学者にもわかりやすく書いてある。正直経済学的な知識も期待したのだが、そういった記述は少なく、あくまでジャーナリストの書く文章。
ODAについて、先駆的な国アメリカの歴史からはじまり、日本のODAの歴史を述べ、その特異性や特徴をケーススタディと共に探り、最後に問題点を浮き彫りにした上で提言を述べている構造。特に良かったのは、前半の歴史の部分。よくわかったし、国際比較がなされているため日本のODAの特徴も理解しやすかった。
ただ、説得力や論理性にはすこし疑問が残った。問題を指摘しているだけで、それがなぜ起こっているのか、なぜ治らないのか深い分析があったわけではない。例えばODA外交とされる日本のODAが果たして日本の国益にかなっているかという疑問が本書の最大の論点であり、この点は私も疑問を持っている。だが、その結論が、日本特有の保守的な現状維持思考であるというのは本当なのかと思った。というか日本人としてそれは信じたくないなと。日本の官僚や政治家がそこまで馬鹿なのだろうかとさすがに疑問。他の要因があるのではと常に疑問を持ってしまう点で説得力にかけた。
また、ODAが国益にかなっていないという主張をもつ筆者だが、全てそうなっていないということばかりで、だとするとODAが国益にしている部分はゼロなのかと思ってしまう。この辺りは、いくら著者の主張でなくても示してほしいなと思う。
特に著者が疑問視していたのは対中ODAである。現状はどうなっているのか私はまだ知らないが確かに問題であるのは事実。ただし、こうした巨額のODAを中国にし続けている(例えばアメリカは援助を行っていない)日本の姿勢の原因が、本当に悪しき官僚主義という理由だけなのか。つまり、本書によれば、例年の実績から援助相場が決まっていて、それを踏襲する形で、必要があれば中国側の要請に応じてすこし追加していく形になっているというもの。そこまで日本の政治は考えていないのか、もしそうなら日本国民としてかなりショックだが、希望も含めて本当にそうではないような気もする。何か本当の部分が述べられていないような印象を持った。そうでないなら、この読了感を払拭するような証拠に欠けている。
引用がうまくなされていないために、学術的に信憑性が乏しいのも事実。あくまで著者の主観的主張と思われてしまう危険もあるだろう。
総じて、私は著者の持つ疑問には賛成であるし、ODAを考えなおしていくべきだという意見も持っている。多く参考になる部分もあった。
- 感想投稿日 : 2016年6月28日
- 読了日 : 2016年6月28日
- 本棚登録日 : 2016年6月28日
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