10代と語る英語教育 ――民間試験導入延期までの道のり (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房 (2020年8月7日発売)
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感想 : 14
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大学入試に関する英語民間試験導入の1番の被害者であった高校生の視点を中心に、民間試験導入延期までの過程が鮮明に描かれていた。この本から学んだことは、大学入試改革についてはもちろん、おかしいと感じたものには声を上げて行動することだ。高校生の発言にあった「もやもやしたものを明瞭にしないでいると『あきらめてうまくつき合う』ようになり(中略)」という指摘は、自分の教員としての意識を強くさせてくれたものだった。
上から差し出される仕事やタスクを流れ作業のように大人がこなしていては、生徒が勉強を受け身のものだと感じてしまうの仕方がない。「何のためにやるのか」「何故やるのか」という目的意識を持って生きることが何においても重要で、大学入試という数値評価のものがゴールに待ち構えていたとしても、批判的思考や自律性を育むのが学校教育ですべきことだと痛感した。
また、3人の学生が各々の学校で孤軍奮闘していた事実も見逃せない。多くの高校生もきっと、この政策の被害者だと分かっていつつも、政治に声を上げることができないのだろう。それが政治への無関心から来るものなのか、もしくは無謀なことだと諦めているのかは分からないが、マイノリティをくすくす笑って見過ごす風潮はなんとしても変えていくべきものである。英語の発音が良すぎると教室でかえって笑われるという事実も同じように言える。
大人になって社会で生きていると、昔大切にしたいと思ったことや、こうなりたいという理想が風化してしまいそうになることがある。そんな自分を立ち止まらせて、振り替えらせてくれるのはいつだって生徒の素直な意見である。自分の生徒でなくても、こうやって本を通してでもハッと気付かせてくれる生徒のパワーは本当に強い。教員はそんな生徒の近くで生きることができる素晴らしい仕事なんだと改めて感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 英語教育政策
感想投稿日 : 2020年9月12日
読了日 : 2020年9月12日
本棚登録日 : 2020年9月7日

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