物語オ-ストラリアの歴史: 多文化ミドルパワ-の実験 (中公新書 1547)

著者 :
  • 中央公論新社 (2000年8月25日発売)
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仕事の都合上、オーストラリアについて勉強する必要があったので、Amazonで「オーストラリア」と検索して見つけた本を読みました。
本書はオーストラリア大陸植民地後の、”国家としてのオーストラリア”の歴史に焦点を当てた本となります。なので、アボリジナルといった先住民や、大陸の歴史を紐解くものではありません。
しかし、本書では多くのデータとキーパーソンの深堀りが充実しており、文庫本サイズでありながらオーストラリアについて包括的かつ具体的なイメージがもてる良書だと思います。

というわけで、必然的にその歴史は建国がスタートになるわけですが、驚いたことに、オーストラリアには独立や建国を祝う日(独立記念日や建国記念日)がないというのです。オーストラリアデーという祝日が1月26日に制定されているものの、これはイギリスの船団が1788年同日にオーストラリア大陸に上陸をした記念日に過ぎないのです。
日本では神話に基づいた建国を祝う日というものが制定されているし、アメリカはもちろん、カナダやインドにも独立記念日がありますが、オーストラリアにはそれがないのです。

また、イギリスの植民地としての歴史は18世紀末からですが、連邦国家として自治権を手にいれたのは1901年と非常に歴史が浅いです。また、自治権を得たのちも、当初は外交権はイギリスに握られていたり、今でも総督と呼ばれるイギリス国王代理が常駐しており、首相の罷免権を持っていたりと、どこかイギリスから独立しきれていない側面が現在も残っているようです。

このような経緯からも分かる通り、オーストラリアは国家としてのアイデンティティの確立に悩んできた国である、というのが率直なイメージです。
その悩みの真相は、イギリスに翻弄されてきた歴史にあると言えそうです。

19世紀には、イギリス連邦の奴隷制撤廃により労働力が不足する中、オーストラリアはゴールドラッシュに沸きますが、そこに便乗してきた中国人労働者(低賃金でよく働く)に悩まされ、白豪主義が台頭します。そして、白豪主義を推進するためにオーストラリア連邦が誕生し、白豪主義は国家の政策として正当化されていきます。
そういったことから、大洋州においては帝国主義者扱いを受けつつも、オーストラリアはイギリスのボーア戦争や義和団事件への派兵を通じて忠誠心を高めていくことになります。

しかしながら、第一次大戦、第二次大戦と、2度の大戦を機に、イギリス連邦の力は急速に衰え、イギリス自身はヨーロッパ回帰の思想(EU)へと傾倒していき、オーストラリアはイギリス連邦の輪から孤立していきます。
そこで、戦後はアジアへの急接近を見せながらアジアの一員を模索する一方、ベトナム戦争への介入の結果、大量の難民を受け入れざるを得なくなり、白豪主義は終焉を迎えることに・・・。
結果的に、嫌が応にも多様性を受け入れざるを得ない空気が生まれ、総合的な経済力(GDP)では欧米先進国には及ばないことへのコンプレックスにも苛まれながら、アジアを中心とする「ミドルパワー外交」(欧米の大国が手を出さない問題やチャンスに目をつける外交、APECの発足などが代表例)という自国の立ち位置をなんとか見出していくのです。

その中でも、多様な資源に恵まれた国土というのは、もはや奇跡としか言いようがないでしょう。ミドルパワー外交と、多様な資源により、世界の経済危機にも耐えながら経済成長を続け、一人当たりGDPでは随一の国へと成長した、、、というのがこの国の歴史のようです。

しかしながら、自動車産業を代表とする製造業が成り立たなかったり、映画や音楽などソフト産業はハリウッドに持って行かれたりと、量質ともに大国になりきれないというコンプレックスは相当大きいのではないかと勝手に想像します。
このようなことを踏まえると、オーストラリアは様々なコンプレックスを(本心では望んでこなかった)多様性で吸収し、独特の活力へと転化している国なのではないかと考えます。

なーんてことを考察しながらも、先日訪れたメルボルンはとても素晴らしい街でした。
人は気さくだし全く表面的な優しさというものを感じず、日は浅いながらも歴史建築と大都会が融合していて、そこにいるだけでいい気分になれる街です。
そして何と言っても気軽に、どこでも、手ごろに楽しめるラテライフ(私はフラットホワイト派)。
愛すべきオーストラリアという国をより深く理解しながら、旧イギリス帝国時代にも知識の幅を広げていきたと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: お勉強
感想投稿日 : 2017年6月8日
読了日 : 2017年5月16日
本棚登録日 : 2017年3月28日

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