アジャイル開発の考え方は分かるものの、ではどうすれば導入できるのか?というところが抜け落ちており、「さあ、アジャイル開発を始めよう」と言われても導入できるようにはなっていない。また、「はじめに」では既存のやり方に組み込んでいくことが大切であると述べているが、その組み込み方の説明がないのも不親切である。
既存のV字モデルとの比較でアジャイルの優位性を示すやり方はアジャイルを導入しようとするときの説得材料としては秀逸であり、著者らがおそらくこの方法で説得をしてきたのだろうということが覗える。一方で導入事例は分散開発しかなく、アジャイルは分散開発にしか使えない、という誤解を招きかねない。個人的には社内で使うツールの開発こそアジャイル開発を導入すべきだと思っている。社内ツールはとにかく要求が二転三転し、納期も比較的短いことが多い。まさにアジャイル開発にうってつけの場面である。
アジャイル開発を円滑に進めるために必要なものとして、著者らは「自動化」であるとしているが本当にそれが必要なのだろうか?確かに自動化も重要な要素ではあるが、真に重要なのはコミュニケーションのはずである。「アジャイルソフトウェア開発宣言」が発表されたのは2001年である。当時は今ほど支援ツールが豊富だったわけではない。それでもアジャイル開発ができたのはなぜか?それは、宣言に謳われている「プロセスやツールよりも個人と対話を」、「契約交渉よりも顧客との強協調を」に尽きる。宣言は4項目あるが、そのうち2つがコミュニケーションに類するものであることからもコミュニケーションが重要であることがわかる。それを「円滑に進めるために必要なものは自動化」と本文を締めくくっているようでは、著者らはアジャイル開発の本質を理解していない、と言わざるを得ない。
- 感想投稿日 : 2014年6月2日
- 読了日 : 2014年6月2日
- 本棚登録日 : 2014年6月2日
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