007/ロシアから愛をこめて【新訳版】 (創元推理文庫 M フ 10-4)

  • 東京創元社 (2021年12月20日発売)
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感想 : 2

なんだこれ、『カジノ・ロワイヤル』から、格段にスケールアップしている!
というのが、冒頭を読んでみて、いきなりの印象だ。
プールサイドで、底知れない男の筋肉をもみながら、その女性は、相手のことを、知るまい、知るまいと気をつけている。
読者としては知りたいのだが、彼女の生命のためには、まったくもってそれが正解だろう。

さて、読んでも読んでも、007は出てこない。
ジェームズ・ボンドの名前も出てこない。
出てくるのは、マッサージを受けていたドノヴァン・グラントなる男についてだ。
アイルランド娘とドイツ男性の一夜の関係で生まれたこの男は、殺人狂である。
今でこそ、犯人像として珍しくない人物だが、1957年出版の本に出てくるとは思わなかった。

自国に飽き足りなくなった青年は、ソビエトに渡り、天職にたどり着く。
SMERSH(スメルシュ)――ソビエトの誇る暗殺機関の、死刑執行官である。
ソビエトは、スメルシュを使って、ある男の暗殺を決定した。
007――ジェームズ・ボンドを「恥辱を与えて殺害せよ」今や首席死刑執行官となったドノヴァン・グラントに、その指令が下った。

さて、この作戦には、見目麗しき女性が必要だ。
タチアナ・ロマノヴァ――グレタ・ガルボの若い頃に似た美女――彼女が今回のボンド・ガールである。
国家保安省伍長、まだ24歳、すれたところのない彼女は、
「あなたの写真に一目惚れしました」
ジェームズ・ボンドに言い寄る役として、ぴったりだ。
ジェームズ・ボンドの名前が出てくるのが、数十ページ後、彼そのものが出てくるのが、第二部から、ボンド・ガールと合流するのが、ようやく、ええと――

グレタ・ガルボに似た美女もさりながら、実は私はこの人もボンド・ガールに入れちゃってよいのではないかと、気になる女性がいる。

ローザ・クレッブ、ヒキガエルに似た、美女ならぬ醜女である。
スメルシュにおいて、作戦遂行部責任者の地位についており、部下や同僚から、重宝され、疎まれ、生理的に不快に思われている。
偉そうで、拷問が好きで、"実動部員"としても実力者なので、近くにいたら堪らないだろうことはわかる。 
けれども、私は彼女が気に入ってしまった。

『ロシアから愛をこめて』は、読んだ後に映画版を見た。
『ロシアより愛をこめて』――タイトルはちょっと違う。
まともにソビエトを敵にはしていなかったり、機械の名前、機関の名前が変わっていたりするが、大筋は変わっていない。
ドノヴァンは寡黙で、
タチアナは美女だし、
ローザは強烈だし、
ジェームズ・ボンドはショーン・コネリー――男前だ。

しかし、映画はさておき、この原作は困った。
面白く読んだ後にこれか!

早くつづきを読ませてほしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年5月5日
読了日 : 2022年5月4日
本棚登録日 : 2022年4月28日

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