高橋是清と井上準之助―インフレか、デフレか (文春新書)

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  • 文藝春秋 (2012年3月16日発売)
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 本書は、昭和恐慌(1930年~1931年、昭和5年~6年)の時代に政治家として活躍した「高橋是清」と「井上準之助」の詳細な活動内容の紹介だが、現在ではこの二人が当時いったい何を考えて何を行ったのかを知っている人はあまり多くはない。
 昭和初期に日本政府の経済政策の「金解禁」と「金の輸出禁止」が何を意味するのかは、現在の自由化された日本の為替制度からは想像しにくいが、当時の国際貿易制度と国内経済政策の詳細な紹介は、当時の「インフレ政策とデフレ政策」の対立をわかりやすく紹介している。
 本書を読んでわかったことは、現在で言えば、高橋是清は、「インフレ・リフレ政策推進者」であり、井上準之助は「財政均衡政策と小さな政府を推進したデフレを招いた政策推進者」であったのだろうと思えた。
 高橋是清は、原首相の時代に「歴史に残る積極予算を編成し」、「大正七年の高等諸学校創設及拡張計画」では4500万円という膨大な金を投じて高等諸学校を新・増設している。これを読んで、現在の民主党の「子ども手当て」や「最低保証年金」が頭に浮かんだ。
 一方、井上準之助は、金解禁を行うことによって国の財政を縮めた。世界恐慌の「暴風に向かって窓を開ける」結果となっても、「井上は予算を小さくすればするほど無駄はなくなりよい国になると考えている」。この歴史を読んで、現在の「新自由主義的政策者」や財務省の「健全財政政策者」が頭に浮かんだ。
 本書によると、井上準之助の昭和4年の金解禁によってもたらされた経済的打撃は、日本の社会の動揺を引き起こし、昭和6年の浜口総理へのテロや、満州事変などの政治的変動を招いている。
 その混乱を収めたのは、老齢の高橋是清大蔵大臣である。「金の輸出禁止・兌換の停止」を断行すると共に、昭和七年予算でわが国はじめての赤字国債を「日銀引き受け」で発行し、予算のばら撒きを行う。そのばら撒き対象は、満州での軍事費と公共事業費にあてられ、この政策により「日本は世界大恐慌から世界で一番早く脱出することになる」。これは立派なインフレ・リフレ政策であると思え、現在の小沢一郎の「国民の生活が一番」との主張が頭に浮かんだ。
 本書による昭和初期の歴史は、高橋是清のインフレ・リフレ政策により、日本が経済恐慌から脱出できた事実と共に、拡大した軍事費が軍部の発言力の増大を招いて、太平洋戦争への破局を招いたことを私たちに教えている。 本書の興味深い歴史的考察を、現在の日本にあてはめるならば、壮大なインフレ・リフレ政策こそが、不況を克服するためには必要なのだろうか。そしてその拡大する財政赤字と投じられる予算が招く社会的結果は、どのような影響を次の時代に及ぼすのかとの感想を持った。
 本書は、昭和初期のわが国の政治・経済史から、現在の日本の政治・経済をも深く考えさせてくれる良書として高く評価したい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年5月11日
読了日 : 2012年5月11日
本棚登録日 : 2012年5月11日

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