<絵本喫茶の思い出>
カビの生えそうなほど古いビルの最上階が、童話のイメージで内装を変え、雰囲気のあるレストランに生まれかわっていました。夜の食事&バータイムはなかなかの繁盛なので、一人でふらっと立ち寄るなら、昼間のカフェタイム。一息には飲めないこっくりしたコーヒー、絵本の中から抜け出てきたようなセンスのよいデザートと、静かな時間を楽しめました。
温かい黒すぐりのジュースが美味しかった。店主は旅好きで、姿かたちは似ていないけれど、全身からスナフキンのようなオーラを揺らめかせていました。お茶やスイーツを運んでくる女の子は、さらさらの綺麗な髪を結い上げ、歩きながら柔らかな空気を辺りに放っていました☆ 髪型だけはミイみたいな、優しそうな、不思議な女の子。ひそかに憧れていました。
店の人がコーヒーを淹れている隙に、片隅の本棚に近づいてみました。やっぱりひっそり並んでいました、ムーミンの文庫版や漫画本が! 大事に読まれているのが手触りで分かりました。
本棚を少し目立たせて、絵本フェアということにしていた時期もありましたね。二日続けてお茶に行ったものです。一日目は何となく緊張してコーヒーだけ頂き、鞄に入っていたいつもの本を読んでしまいました。古い香水のしみた汚い栞を忘れていった。捨ててしまっただろうと思ってました。
二日目、特製の絵本喫茶セットを頼みました。今度こそ、お店の本棚にあった絵本をめくっていたら、憧れの女の子がふわっと現れました。先日忘れていった栞を手に☆ 私は不器用に「ありがとうございます」を三遍繰り返すしかできなかった。注文以外で彼女の声をきけた嬉しさ半分、まともな会話を成立させられなかった情けなさへの自己嫌悪も半分。
その後、カフェ時間はなくなってしまったけど、あの女の子は今でも働いているだろうか? 深夜ざわめく店内で彼女がお酒を運んでいる絵は、どうしても想像できないでいます。
- 感想投稿日 : 2020年3月16日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2007年9月14日
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