梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店 (2022年4月13日発売)
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「お前の弟は殺されたのだよ」
死期迫る母の告白。疎開先で事故死したと聞いていた弟・秀二。大学教授である智一は真相を突き止めるため、秀二の疎開先だった山蔵という寒村を訪ねた。23年前の真実を突き止めようとする中、かつて弟が溺死したという龍神池に真っ赤な杭で突かれた死体が浮かんで──。

名作と呼ばれながらも入手困難で、古書価格も高騰していた梶龍雄先生の復刊シリーズ。読み終わってみると、その評価通りの面白さ!弟は殺されたという導入から引き込まれ、迷い込んだのは閉鎖的な村社会。現在は滅んだ旧家・妙見家、その蔵に居たらしき謎の少年、龍神池にまつわる伝説、そして現在進行形で巻き起こる事件の数々。戦争前後の社会情勢を交えながら濃密に進んでいく。

圧倒的な情報密度に隠された伏線の数々に、後半は「ああー!」「ええー?!」「そんなん考慮しとらんよ…」と声を上げるばかり。第二章までは情報量に比べて物語がゆったりで焦れるけれど、第三章からの怒涛の事件と推理劇から一気に心を鷲掴みにされた。ダムに貯められた水が亀裂から飛び出すかのような破壊的な真実の濁流。まさにこれは亀裂の物語なのだ。人間同士の、その心の亀裂。埋められない溝と欠落を覗き込む。その池に見えるのは龍神か、それとも生贄たちの死体か。

ぼんやりした智一とキレがいい美緒の推理劇やかけ合いが面白い。トリック考察、アリバイ崩し、過去と現在の事件などなど、トラベルミステリ的な物まで取り入れられていてすごい。ここまで詰め込まれていたら何も言えねえってほど。ただ、解説の三津田信三先生が触れられていた瑕疵は言われてみると確かに!となって、そこだけは作品の亀裂となってしまっているのは残念。それでも充分すぎるほどの内容なので、復刊を機にぜひ手に取ってもらいたい作品。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年4月19日
読了日 : 2022年4月19日
本棚登録日 : 2022年4月19日

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