差別はたいてい悪意のない人がする

  • 大月書店 (2021年8月26日発売)
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差別をするときに思いっきり悪意を持ちながら「差別をしてやろう!」と思ってする人はあまりいないと思う。「差別をしてやろう!」と思ってする人は自分は差別主義者ですという最悪な自己紹介だ。
差別をなくすことが難しいところは社会の構造によって、ある意味では差別を「刷り込まれる」ような状態で生きてきて無意識のうちに差別的な価値観や行動を内包してしまって、それが発露してしまうことだ。
これが例えば家庭内の構造であれば自分の家庭外の人と関わったとき「そういうのは差別にあたる」「ひどいことだ」と言われれば自分の考えが誰かを踏みにじる振る舞いであることに気づくかもしれない。でもこれが社会の構造からくるものであれば、その社会で生きている人はかなり割合でそういった差別的な考えを自分のなかに植え付けられて育てられてしまう。
すると自分たちが差別的な価値観や振る舞いをしていることに気づかないままであり、それが多数派であって自分たちは別に間違ったことなんてしちゃいないとすら思ってしまう。
差別的な価値観や行動は、社会の構造が生んで形作っているしそれは無知から生まれるのだということがこの本を読んでみてわかった。

いま世の中はこの差別をどうにかなくそうとする働きが以前よりも大きくなっている。
それに対して煩わしいと思えること自体が自分がそもそも「特権」を持っているという証左になる。また悪意のない差別はこの世の中に蔓延っており、差別に反対している人ですら、とある分野では差別的な考えを持っているということも少なくない。
「特権」というと何かすごく特別で社会のなかの一部の人しか持っていないようなものだという意識がある人もいると思うが、差別でいうところの「特権」はそうではない。
「他の人は所持していないが、自分は所持している」というものらしい。そしてその「特権」を無意識のうちに享受している。それが当然だから「あなたは特権があります」と言われても「そんなことないけど?」と思うし、その「特権」を持っていない人へ合わせた改革なんかが行われ層になったときに初めて自分の持つ「特権」を意識する。でもそれはもともと無意識で無自覚のもので当たり前のことだからこそ「自分の持つものを奪われる」という意識が働き、持たざる人へ「優遇されてずるい」という思いが発生するのだ。

差別はこの世の中に入り込みすぎてまったく目立たない。
著者は世界で起きた様々事件や統計などをもとに、この世のなかがどれだけ不平等が存在していて私たちがそれに気づかずに生活しているのか、そしてそれが差別に加担しているのだと本を通して書いている。
差別はよくないとわかっているのに、差別がなくならない理由。差別的な発言をした人たちが「そんなつもりはなかった」と言う理由。ジェンダーの平等が謳われると男性が理不尽だと感じるのか。
人生で起きるあらゆる問題を、その人だけが悪いような「自己責任」という言葉で片づける人がいるのか。保育士や看護師は女性が多く、その賃金が低い理由。
きっと今この記事を読んでくれている人のなかにも、先述したようなことを思ったり疑問を感じたりしたことがある人はいると思う。それに対しての明確な回答がこの本では得られる。

差別をなくしたいという気持ちや言葉だけでは、悲しいことに差別はなくならない。
そういった思いやりを人間に期待してはならない。自分が持つ「特権」を考えて、世の中は果たして不平等をなくすための動きをしているか、自分は誰かの足を踏みつけながら生きていないか。
そう考えながらこの本を読めば、きっとその瞬間から社会への解像度が上がるはずだ。
差別はいけないことだし、LGBTQのことも気になっている。差別をできるだけしないようにしていきたい。でも、じゃあどうすればいいんだろうと差別の存在は自分の振る舞いを見つめ直したい人にもおすすめの一冊だ。

自分の立場を認識した瞬間、あなたに世界はどう見えるだろうか。

「差別はたいてい悪意のない人がする」著者インタビュー 無自覚に他人を踏みつけないためにできること|好書好日
ほとんどの人が差別をしたくないと思っているからこそ、気づかれない差別が多く存在していると言う。ではどうすれば気づけるのか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教養・新書
感想投稿日 : 2022年12月25日
読了日 : 2022年12月23日
本棚登録日 : 2022年12月10日

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