さよならインターネット - まもなく消えるその「輪郭」について (中公新書ラクレ 560)
- 中央公論新社 (2016年8月8日発売)
知らなかったのだけど、家入一真さんは「ブクログ」創始者であり、初期のインターネットのプラットフォームの幾つかを設計した方らしい。ご多聞に漏れず、途中でちょっと失敗して、現在はそれらには関わってはないようだ。
最前線の人ではないからこそ、インターネットに対する昔話とその功罪についての話は傾聴に値するものがあった。
中学生時代、人とコミュニケートが出来ない家入さんを救ったのは、90年代から始まった「パソコン通信」だったという。懐かしい話も幾つか出た(始まりは「ピーヒョロロ」が欠かせなかった)。けれども「弱い人たちやマイノリティが守られる「聖域」への期待」はやがて裏切られる。いったい何処が間違ったのだろう。
前半は最前線を走っていた家入さんのインターネット史。他の人も書いているかもしれないけれど、それらをまとめて最終章に個人史年表を入れてほしかった。01年レンタルサーバー「ロリポップ」を開始、03年ブログが始まる、04年「Web2.0」が語られる‥‥。私はその2-3年後を後追いしていたんだなと思う。この頃「ブクログ」も作られるけど、「読んだ本の履歴やその本の感想などを本棚に残し、それを第三者と共有するという、本好きの自分らしいサービスでした」と書いているだけ。
けれども、読んでみて、ブクログは未だに「閉じた」世界でもないし、広げすぎて炎上することもない。家入さんの思想がまだ息づいているようにも思えた。
07年iPhoneリリース。持ち歩くインターネットへ。11年東日本大震災、インターネットは大きなものから小さなものまで、被災者の力になるさまざまなサービスが生む。家入さんは、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」を立ち上げる。この年LINEもサービス開始。
この頃から、「インターネットは大きくなりすぎたために、むしろ個々人の小さな単位に分断されることを選ぶようになった」という。
インターネット上の祭りも2種類起こるようになる。閉鎖的な環境や状況で行われれば行われるほど、より盛り上がる。
(1)社会運動につながるような祭り。「保育園落ちた日本死ね!」の待機児童問題がその典型。
(2)血祭りという意味。「社会悪」「不謹慎」という大義名分の元、「私刑」を行う。
→国による本格的な取り締まりが、いつ始まってもおかしくはない。
インターネットはモノの流れや商売のあり方も大きく変えた。企業と消費者とのやり取りから消費者と消費者のやり取りへ。凡ゆるものをシェアして、無駄を削減して生きる。コピーできるものには、人は容易にお金を払わなくてなった。CDも売れなくなった。一方で、現実のライブやコンサートにはしっかりお金を払って参加する。アーティストを直接応援する傾向は強くなっている。よって、データで充足できるコンテンツはどんどんコストダウンしているけれども、それに代替できないものは、付加価値をつけて価格をあげても売れたりしている。つまり体験や感動を買っている。
インターネットと現実が溶け合ってきている。輪郭がなくなってきている。
誰もが別の時間を歩み始めた。自分の興味関心に合わせて、全てを見せることは、それ以外の世界が可視化されないこと(昨日、いつもの映画サークルで、年間鑑賞数が100-200の映画通ばかりが3人話していたのだけど、他2人は寅さん映画を一回も見たことがない、と言われて心底驚いた)。
家入さんは「輪郭など取り戻す必要はない」という人がいるのを知っている上で、取り戻すためには何をどうすれば良いのか、考えてみる。
信じるに足るものを探してみよう。
それはアルゴリズムで自分に合った情報を流してくるSNSのタイムラインを眺めていては見つからない。
「外に飛び出してみよう」
←私が良くする「旅」はそういうことなんだな、と再確認できた。
近所の居酒屋にふらっと行ったならば、出会いがあり、ハプニングがある。
一日中スマホには触らないと決める。孤独を味わう。
自分でプラットフォームを作ってみよう。
←ここに書いているのは、全て2016年前半の家入さんの意見です。コロナ禍のもと、ズーム会が当たり前になり、少しずつ「国による規制」もかけ始められている現代、今の家入さんは何を思っているのか?ちょっと聞いてみたい。何処かに発信すれば、届くかな?
←これはseiyan36さんのレビューで見つけた本。私はそれをブックリストで紹介してみた。ブックリストはタイムラインを見ていただけでは見つからない本を探す場。けれども200文字では、その本の魅力は伝わらないというのが私の持論。よって詳しく紹介したレビュー込みで、私のアンテナに触れたものを紹介している。その他、いろんなツールと足と目で、消費者は本に出逢って欲しいなとは思う。
- 感想投稿日 : 2022年8月17日
- 読了日 : 2022年8月17日
- 本棚登録日 : 2022年8月17日
みんなの感想をみる