アニメと戦争の関係の約100年を、濃密に解説した労作。
人類の「文明化」が始まって以来、人類社会の大事件は常に戦争だった。ならば、人類の創作物の中で戦争が大きなウエイトを占めるのは理の当然というべきだろう。
日本アニメは20世紀の初めから始まった(1917)。本格戦争アニメは「空の桃太郎」(1931)からだった。著者は成田龍一の「「戦争体験」の戦後史」のカテゴリーを借りて、戦争アニメ史がどのように推移したのかスケッチする。
①1931-1946「状況」として語られた時代。
戦争プロパガンダとしてのアニメ(代表作「桃太郎 海の荒鷲(1942)」)
②1945-1965「体験」の時代。
戦争を体験した世代が体験した世代に語りかける。
③1965-1990「証言」の時代。体験していない世代に語りかける
④1990以降「記憶」の時代。社会の中に形成されてゆく「集団的な記憶」が中心になる。
②の例として「巨人の星(第1、9、125、177話)」と「ゲゲゲの鬼太郎第一シリーズ第32話」を挙げていたのはビックリ。リアルタイムで観ていたけど、そういえば戦争体験が「自明のものとして出ていた」。
③の例として「サイボーグ009」の第一シリーズ16話、26話が挙げられる。②③共に、辻真先が脚本に関わっていた。「戦争から教訓を学ばない人類」への警笛を描き、今なお解決されていない矛盾の指摘まで踏み込んでいたらしい。
その後、「宇宙戦艦ヤマト」になると、著者の思い入れ深くかなり踏み込んだ説明になっている。
④ヤマトから数年後、「ガンダム」になると、もはや作り手は「戦争を知らない世代」にバトンタッチされる。過去の戦争との繋がりは断絶する。
そこからは、「歴史的/非歴史的」「みんな/わたし」としての座標軸を示されて、歴史的・みんな「桃太郎」「巨人の星」「009」から、非歴史的・わたし「ガンダム」「マクロス」へ移り、非歴史的・みんな「パトレイバー2」「198X年」、わたし・歴史的「風立ちぬ」「この世界の片隅に」に移ってゆくと整理している。
専門家だけあって、目配りはしっかりしていて、書いてあることに関しては、多くは納得するものだった。
その上で、物足りないところを幾つか。
・ここまで分析しているのだから、次に来るアニメの特徴や問題点をきちんと書いて欲しかった。言及したアニメの問題点は、ある程度は指摘しているので非常に残念だった。
・20世紀のアニメ史における戦争を解説することで何が明らかになるのかまで踏み込んで書いて欲しかった。
・あまり代表的なアニメとも言えないアニメ(「ラグダム」「ボトムス」「メガゾーン23」等)を分析していて、ちょっと目配りしすぎではないか?とも思った。
・サブカルチャーアニメは扱わないと宣言しているが、「エヴァ」はサブカルチャーなのか?「進撃の巨人」はサブカルチャーなのか?そんなことはないはずだ。こんなにも影響力のあるアニメを何故無視したのか?1文字も言及していない。
結果的に当たり障りのない批評に落ち着いている。おそらく、左右に偏らない「中立」の評論を目指したのだろう。しかし、わたしに言わせれば、「そんな評論などあり得ない」。批評というものは、必ず自分の色眼鏡で対象を選ぶからだ。問題は、何の立場に立って物事を批評するのか?ではないだろうか。
- 感想投稿日 : 2022年10月24日
- 読了日 : 2022年10月24日
- 本棚登録日 : 2022年10月24日
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