のらねこの詩

  • 偕成社
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いつもの図書館で見つけた本書は、1979年5月 初版第1刷発行とあり、こんなに貴重なものが(2006年『ねこのシェリー』に、加筆、改題して再販されているそうです)、児童書の棚に普通に置かれていたことへの驚きとともに、中江夫妻(なかえよしを、上野紀子)の作品が再び読める嬉しさもあり、即借りることに。

表紙やページに、焼けや色褪せがあるため、元々、どんな色合いだったのか自信がないが、上野さんの、白と黒を主体とした、淡く繊細な絹のような鉛筆画には、カーテンの微妙な揺れに爽やかな風や、窓を通した光の温かさも感じられる、居心地の良さもあるが、周りの薄らとした、ぼやけたような背景には、幻想的な美しさもあり、猫たちにとって、新たな世界が開けるような期待感も滲ませているように、感じられました。

物語は、とある家で大切に飼われている、白猫の「ルシア」が、のらねこと出会う、シンプルなお話で、ルシアという言葉は、ラテン語の『光』に由来しており、もしかしたら、それは、のらねこにとっての希望なのかもしれないし、ルシアの絵の、輝くような美しい毛並みや、オーラを纏っているような存在感なのかもしれません。

そして、私なりに考えた、タイトルの『詩(うた)』の意味するところ・・・のらねこに誘われて、苦心しながらも、めったに出たことのない、外の世界の新しい体験をする、ルシアの思いと、ひとりっきりだから名前なんかいらないと言う、気ままで、ちょっと意地悪な、のらねこの思いが、あるタイミングで、切なくも通い合うかのような思いを読者に感じさせてくれる、その瞬間。

それは、まるで、愛が欲しいと思ったときに、普段の行動理念に反することを平気でする人間のようだ。

そう、つい、さっきまで言っていたことと、正反対の事をしている、その想いの深さ、純粋さたるや。

しかも、もし、それで愛が得られるのならば、平気で馬鹿にもなれるのだろう。


「あぶないよ。しらないのかい、それは きれいな○○だけど ○○が あるぜ。ちかづくのは りこうなねこの することじゃあないよ」
のらねこは しろいねこに おしえてあげました。


物語を読む度に、遠景の猫の姿が、小さいながらも、より愛おしく、確かな存在感の証になっていることを実感させられて、胸に迫ります。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本
感想投稿日 : 2022年8月30日
読了日 : 2022年8月30日
本棚登録日 : 2022年8月30日

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