“「だいたい、人を思いきり叩いてくれちゃって。傷とか残ったらどうしてくれるのよ。私の顔に傷が残るなんて、世界の損失だわ」
メイドとしてかぶっている猫の都合上、他のメイドたちに混じってマイヤーを罵るのはいただけない。誰も聞いていない今、吐き出すだけ吐き出してやろうとシャーロットは思った。
「叩かれただけで終わるなんて勿体ないわよね。折角お坊ちゃまが見てたんだもの。使わない手はないわ。面識があるわけだし、上手く同情引けないかしら。それでいつか院長先生に——っ!?」
——ガタッ。
突如、背後でドアが音を立てる。シャーロットは反射的に振り返り、驚きに目を瞠った。
(ちょっと、なんでいるのよ!)
そこには、ドアノブに手をかけた状態のまま視線を泳がせているエロールがいた。入るのに躊躇してたら、なにかの拍子に思わず手に力を込めてしまった、といった状況か。開けようとしてドアを開けたわけではなさそうな雰囲気だった。”
シャーロット視点で読んでたら苛立つのって、あともう一発ぐらいリザ達にパンチが欲しかった。
“「じゃあ、『シャーロット』って、やっぱり......」
誰かがぽつりと呟いたのを皮切りに、驚きが波紋のように広がっていく。
伯爵が、ぽかんと口を開けた。
「早く会いたいわ。クラウスさん、シャーロットはどこに?夜会の準備で忙しいのかしら?」
最初にこちらを向いたのは誰だっただろう。階上にいる者も階下にいる者も、一人また一人と視線を走らせ、シャーロットの姿を見つけて止まる。
みんなの視線に釣られるようにメロディも上を見る。——目が、合った。
「まあ、シャーロット!」
喜びの声を上げたメロディはしかし、すぐに首をかしげ、白い頬に指を滑らせる。
「どうしてメイドの格好をしているの?あなたは何を着ても似合うけれど、さすがにその格好で夜会に出るのはまずいのではないかしら?」
心底不思議そうな声が、玄関ホールに嫌というほどよく響いた。”
- 感想投稿日 : 2011年11月16日
- 読了日 : 2011年11月16日
- 本棚登録日 : 2011年11月16日
みんなの感想をみる