“くるんくるんとシャーペンを回しながら、ミツルは頬づえをついて、前方の少女を見ている。だって、それくらいしかすることがない。予備校の模試。今は英語。リスニングのテストで放送が流れるまでもうすこし。試験官の教員は先ほど出ていった。
本来の試験日は明日、つまりこれは前日受験。ミツルはたまたま明日、顔も知らない親戚の結婚式に呼ばれている。この部屋にこの四人が集まったのは、ただの偶然――偶然?
そう、偶然。ただの偶然。
そしてきっと、これも偶然。
突然、部屋が真っ暗になった。停電だ、と気づくにはすこし時間が必要だった。”
親の敷いたレールを進みつつも迷いもある桧山ミツル。
絵を描くことをあきらめきれない霧原かずみ。
毒舌王女と呼ばれる男子嫌いの神野若葉。
剣道一筋でどこか冷たい市川ボナパルト。
これは、この四人が停電の日たまたま同じ教室にいたっていう、ただの偶然、ただの奇跡から展開していく物語。
最後は全部一方通行であることが明かされて、そのまま終わってしまったという雰囲気も感じられる。
でも、最後の部分を読む限りは、ドロドロしたものではなく、彼らはとても大切な仲間になっていくんじゃないかなって思う。
ただひとついうなら、若葉と姉との問題が深刻化したのにそのまま終わっちゃったっていう。
それが、少し残念。
“「奇跡はあるよぉ」
そこへ――上から、声が降ってきた。
開けられた窓。三階の高さ。かずみと、若葉の姿が見えた。
「私も……信じてないけど、あってもいいと思う」
若葉も言った。
「信じてたら、奇跡は起きるんじゃないかなって……でもそれを信じていなかったら、もし起きたとしてもそれは……偶然。たった一度だけの悲しい偶然」
「そうだよー。だからね、私たちがあの日、停電に遭ったのだって」
「……偶然、さ」
市川は答えた。
迷いのない断定。離れていこうとする市川。
「じゃ、偶然でいい!」
ミツルは走った。その背中を追った。”
- 感想投稿日 : 2009年9月4日
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- 本棚登録日 : 2009年9月4日
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