「ああ、また国境本か」などと惰性で買い、しばらく積ん読していた不明を恥じる。
これぞ、全国民必読の書である。
第4章までは普通の国境本。とはいえ筆力は高く、わかりきった内容も面白く読ませる。
白眉は第5章の「日本列島編」。ここまで世界のオモシロヘンな国境を他人ゴトとして楽しんでいたのが、他ならぬ自分たちにも無縁ではないという事実、そして最近ニュースで聞くわりによく知らない(というのも教えられていないため)問題の本質を、平易かつ明快な文章でズバリとつきつけられる。平和ボケの夢も覚めること請け合いである。
その筆致は公正・冷静…などと私がベタ褒めすると、すわウヨク本かと思われかねないが(笑)、本書最大の特徴はかてて加えて「現実的」であることだ。この一点をもってしても、本書がイデオロギーとは無縁に、ただ事実を描いたものであることがよくわかる。
——あらゆる国境紛争の原因は、およそすべての国が持つ「自国が安心して成り立っていける環境を整えたい」という願望である。
——国境紛争というエゴのぶつかり合いの根源となっているのは、多くの場合独裁的な為政者などではなく、一般の国民たちの感情である。
いずれも、けだし卓見と言うべきだ。究極のエゴを見つめる著者のまなざしはどこまでも透徹して、曇りのない真実のみを映し出す。
そんな著者は「日本国」に、さりげなく以下のような説明文を付した。
「他国による侵略支配をほとんど受けたことがない国としても知られる」
私たちが空気のように当たり前に思っていることが、国際標準ではいかに稀有であるか、それがどれほどの偉業と苦行と僥倖の成果であることか、ひとりひとりがいま一度肝に銘じるべきであろう。
?〜2012/7/27読了
- 感想投稿日 : 2012年7月27日
- 読了日 : 2012年7月27日
- 本棚登録日 : 2012年7月27日
みんなの感想をみる