存在しない女たち: 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く

  • 河出書房新社 (2020年11月27日発売)
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感想 : 75

社会や医療、経済はデータに基づいて動いている。しかしそのデータは暗黙のうちに男性を基準として測定され、女性に関するデータが無視されてきたと指摘する本。

本書では実に様々なデータが紹介される。その量は圧倒的で、原注が56ページもついている。
女性は男性と違う体を持ち、違う行動を取る。犯罪被害に遭いやすく、育児や介護等の無償労働の担い手となりやすく、同じ成果を挙げても評価されにくいとするのが本書の主張。

社会的役割や人物評価におけるバイアス等の比較的想像しやすい局面だけでなく、純粋にデータだけで判断されていそうな分野においても、ジェンダーによる偏りが生じているという指摘が興味深かった。
たとえば第10章と第11章は医療に関する視点。前者は、男性を主な治験対象として認可された薬のデータが女性に不適合である点、後者は女性特有の症状が軽視されがちである点を指摘する。
後者の例として、シルデナフィルクエン酸塩(バイアグラ)が生理痛に効く可能性があるにも関わらず、治験が行われないという話が物珍しかった。勃起不全薬としては早々に認可されたことと比べると、確かに非対称だ。

本書では上記のような現状に対して、女性のニーズや行動を認め、それに対応した策をとるべきとする。
たとえば育児についてなら、女性だけが育児をするのは良くないという主張ではない。女性が育児を中心に担っている現状を認め、そのニーズに特化した対策を打つことを求める。つまり打たれる対策は、「女性だけを」対象としたものでなければならないということになる。
駄目な例の一つとして、男女にかかわらず、子どもが生まれた人にテニュア期間を延長する制度(p99)が、実際には男性にのみ時間的余裕を与えるものとなり、却ってテニュア付与の男女差が開いたという事例が引かれる。
本書の理論としては明快だが、社会で実現しようとすると反発の起きやすい考え方であることも想像がつく。

とは言え、本書はあくまでデータについて語る本。
p126で触れられる(元ネタはビッグデータの罠)ように、データをAIに分析させることで物事を判断・評価する場面は今後増えてくるだろう。その際、データ自体がある種のバイアスを含んでいる可能性に気づく視点が重要となる。
本書ではフェミニズムの観点から女性について述べているが、女性というのはマイノリティの中では最大のマジョリティ。では他の属性についてはどうだろうか、と視野を変えるきっかけになりそうだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年4月3日
読了日 : 2023年4月1日
本棚登録日 : 2023年4月3日

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