非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か (集英社新書)

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  • 集英社 (2016年10月14日発売)
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「非モテ」という男性たちの悩みは、同情を受けにくい。日本社会が男性優位につくられているのは火を見るよりも明らかだし、中には女性たちに対して身勝手な要求や逆恨みを募らせるような有害なタイプもある。「勝手に悩んでろ」と上野千鶴子氏が乱暴に切り捨てるのも無理はないか。
だがフェミニストたちには、男性たちの自己嫌悪が見えていないと、著者は森岡正博の言を引きながら言う。たしかにそうかもしれない。高い自殺率にみられるように、男性たちが女性たちにくらべて、自分の弱さを認めにくく助けを求めにくいということはある程度知られており、だからそのような男らしさの縛りから抜け出そうと、メンズリブは言ってきた。
しかし著者が縷々述べる苦しみは、一般に流通した「非モテ」男性像をはるかに超えた深刻さを呈している。男である自分の容姿や性的身体を嫌い、抑圧的な社会集団の一員である自分を呪う。その自己否定は、「男になんて生まれてこなければよかった」と思ってしまったり、自分の子どもが「男でなければいい」と願ってしまうほどで、とても「勝手に悩んでろ」などとはいえない。
ウーマンリブは、男性中心社会において価値が低いものとされる女性性と女性としての自分にとことん向き合いもがくところから始まった。そうしてフェミニズムが解体してきたロマンチックラブイデオロギーやルッキズムという自縛装置に、むしろ男性たちがこれほど深く絡めとられているとはまったく予想外だった。
本書は、愛する女性パートナーと出会い子をもうけてもなお若い頃から苦しめられてきた「非モテ」という名の自己嫌悪から長く抜け出すことができなかったと告白する著者が、自己解放のために考え、同じ悩みを抱えた男性たちに向けて、他者や自分に攻撃を向けることなく、「弱く価値のない自分」に向き合おうと訴える。特に第1章は、引用されている漫画も含めて、かなり切実であり衝撃的でもあった。
一方でどのような男性たちが、なぜそのような隘路に陥ってしまうのか、他の男性性や女性性との関係といったことについては、あまり納得のいく分析は提示されていない。長いこと男性性と結び付けてこられた学業や社会的な達成、経済的自立が、新自由主義的な社会の中でますます競争的になり達成が難しくなっていくときに、「なにもない自分」を承認するという課題が、異性愛的なかたちでしか示されていないという問題が大きいと感じるが、別のアプローチで考えてみる必要がありそうだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史と社会
感想投稿日 : 2022年3月13日
読了日 : 2022年3月11日
本棚登録日 : 2022年3月13日

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