増補 女性解放という思想 (ちくま学芸文庫)

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  • 筑摩書房 (2021年5月12日発売)
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感想 : 10
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オリジナルは1985年刊行だが、著者自身も述べるように、ここで論じられている問題の根本は今とほとんど変わっていない。男女共同参画基本法ができようと、女性活躍推進法ができようと、女性たちは今もあいかわらず「平等に扱ってくれと言うのなら男と同じ基準でやる覚悟はあるのか、あとで泣き言を言うんじゃないぞ」と恫喝されているのだ。
と同時に、イリイチのジェンダー論を鋭く批判する「女性解放論の現在」を読むと、1980年代にフェミニストたちが激しく論争していた「女性解放とは何か、そのためにどのような社会改革が必要なのか」という問いが、いまどれだけ共有されているだろうかとも思う。このとき共有されていた問題意識とは、近代資本主義の枠組みをそのままにしておいて平等な参入だけを求めても女性解放は達成されないということだった。女性解放の運動は、平等と同時に社会変革をめざすものでなくてはならなかったのだ。冷戦が資本主義の勝利に終わった今日、この「大きな問題」はフェミニズムの問題として正面から論じられることはほとんどない。それは女性の解放、いやすべての人の解放にとって進歩なのか、後退なのか。そんなことをあらためて思う。
また、ウーマンリブについて扱った論文2本や、これにつながる「からかいの政治学」がとてもよい。伝説的な運動ではあるが実態が伝わっていないウーマンリブとは、何を問いかけていたのか、いかなる点において画期的だったのか、なぜ激しい反発を引き起こしたのか、非常に分析的に記述されていて、多くの個人的回想録とはまた違った観点からこの運動をふりかえるために重要。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史と社会
感想投稿日 : 2022年2月8日
読了日 : 2022年2月4日
本棚登録日 : 2022年2月8日

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