国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上)

  • 早川書房 (2013年6月25日発売)
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 ヨーロッパと北米が豊かで、アフリカが貧しいのはなぜか。それは地理的条件の違いでも、文化の違いでも、無論遺伝的な要素の違いでもなく、政治経済制度の違いに起因するものなのだということを、歴史的な比較分析をもとに論じていく。
 南は貧しく北が豊かという素朴な説や、ジャレド・ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』が主張するような利用できる動植物種の偏りと伝播に由来するといった説は、スペイン人がやってくるまで中南米のほうが北米よりも遙かに人口稠密でゆたかな文明を築いていたことをもって否定される。プロテスタントの倫理観が資本主義を生んだというヴェーバーに由来する一派の主張する「文化説」は、南北朝鮮の民族が同一であるにもかかわらず現在においては豊かさに大きな差があることを説明できないと一蹴される。ではなぜ、産業革命はイギリスに起こり、西欧で発展したのか。前提としてペストのせいで人口が減少し、農奴制が維持できなくなっていた。イギリスは植民地獲得戦争においてスペインに出遅れたため、国王の力が相対的に不足し、アメリカとの貿易を独占できず、裕福な商人が多数生まれ、それがのちにさらに王権の制限を要求するようになるという循環が生じた。最初の小さな出発点の違いが、「集権的な政治制度と自由な経済制度」へつながり、決定的な違いが生じたのだとする。
 著者らの指摘は、集権的な政治制度と自由な経済制度を持つ国・地域は発展し、収奪的な政治・経済制度(奴隷制・農奴制など)が幅をきかせる国・地域は発展できないとするものだ。あたりまえじゃん、となりそうなところではあるが、ソ連は発展したじゃないかとか、中国はどうなんだとか、そうしたところもぬかりない。結局、「集権的な政治制度」だけでは足りない。「自由な経済制度」がなければ、イノベーションが起こらないので、「収奪的な政治制度」のもとでは経済は発展しつづけることができないと主張する。
「収奪的な政治制度」がいちど確立してしまったら、いいところはぜんぶ支配階層が持って行ってしまう。どうしたら「自由で民主的な政治制度」に移行できるのか。日本は敗戦という犠牲をはらってそれを「なしとげた」のだが、経済発展という意味では幸運であったというべきかもしれない。大日本帝国がもし第二次世界大戦ののちも生き残っていたら、日本は今日のような姿ではなかったにちがいない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会科学
感想投稿日 : 2022年3月5日
読了日 : 2022年3月5日
本棚登録日 : 2022年3月5日

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