ずいぶん積読状態だったのをようやく読了した。きっかけは定かではないが、月村了衛氏セレクトの海外傑作ミステリうんぬん~の中にあったのを気に留めて購入したよな気がする。
文句ナシの面白さ、大傑作であった。今の時勢で読めたこと、自分の個人的趣向、さまざまな事項が絡み合って今読み終えたことは正に僥倖であった。
1970年代ベトナム戦争末期を背景にしており、初版は1975年、なんと今から40年以上前の作品である。帯にあるように、戦闘爆撃機によるハイジャックがメインストーリー。序盤はミッションの準備段階、ここが冗長に感じられなくもないが、ここを省いてしまっては中盤からラストが安っぽくなってしまう。傑作と称される作品群の共通項と思える。
そして中盤以降ハイジャックの実行となるわけだが、実行犯グラント中尉をはじめ、747機長、空港管制官、マスコミ、謎の協力者などなどの人称でストーリーが進むグランドホテル形式である。このハイジャック、どのようにして身代金の金塊を手に入れるのか?ラスト近くになっていくと、この完璧な計画が如何にして破綻するのか?魅力的ハイジャッカーの運命は?と、読者の予想は覆され翻弄され、協力者の正体で愕然とさえした。
最終的にはハイジャックは見事成功し、身代金を奪取し、誰も殺めることなく犯人達はミッションを成功させての終幕であった。ある意味清々しいエンディングであったが、時代背景を読み込むと別の意味が見えるのかもしれない。
ルシアン・ネイハム氏がいかにして、このハイジャックの手法を考えたのか?興味はつきない。残念なことにこれほどの傑作ながら、日本以外では全く売れなかったらしい。そして氏もすでに逝っている。TX75なるコードで主役でもある戦闘爆撃機が描写されているが、ⅤTOLで燃料満載で8時間以上の飛行が可能という化物機を1975年当時において克明に作り上げている。氏はパイロットでもあったらしい、その創造力のなせる技が本作の成功であり、自分の趣向を撃ち抜いたところであった。
2018年現在「F35ライトニング」なる戦闘爆撃機が実在する。ステルス機能に優れたVTOL機である。表紙にあるように747を追尾する機体はF35で脳内再生された。40年以上前にネイハム氏はこの機体を想像しえたのだろうか?そして読了後にあらためて感じたことであるが、ハイジャックミッションを成功させた犯人達のアリバイ工作が完璧であり、仲違いによる破滅を予見させながらも最終的には無事に完結させて、伏線も完璧に回収されている。先の読めない展開にアリバイ、協力者のまさかの正体、冒険活劇としてもミステリとしても見事に完成されていた。
ハイジャック犯は捕えられることなく死することなくピカレスクロマンとして成立している。然しながら当時の世相を鑑みるに、ベトナムの泥沼化による政治の腐敗、平和の希求、帰還兵の処遇など、ハイジャッカーグラント中尉は全て撃ち抜き撃破している。この年代にこの論理を掲げることは、フィクションでありつつも作者の冒険であったのではないか?ここにピカレスクは反転し、正義のヒーローとなる構図をも見せてくれている。
ルシアン・ネイハム氏はまさにこの1作だけで、世界に名だたる作家となった。夭逝が残念であってならない。
- 感想投稿日 : 2018年4月25日
- 本棚登録日 : 2015年7月7日
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