鏖戦【おうせん】/凍月【いてづき】

  • 早川書房 (2023年4月25日発売)
3.46
  • (1)
  • (5)
  • (6)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 82
感想 : 9
4

80〜90年代ハードSFの代表格、グレッグ・ベアの中編2篇がハードカバーで刊行されました。「鏖戦」は「SFマガジン」掲載後に短編集に収録されましたが絶版、「凍月」はピンで文庫化されましたがこちらも絶版、久しぶりの書籍化です。鴨は「鏖戦」についてはSFマガジン掲載時に一度チャレンジして玉砕ヽ( ´ー`)ノ、「凍月」は文庫版を読了していますが、どちらも良い感じでディテールを忘れていましてヽ( ´ー`)ノ新鮮な気持ちで再読いたしました。

読了して、最も強く心に残った印象は、純粋にして過剰なるヴィヴィッドなイメージの奔流。
正直なところ、鴨の浅薄な理解力ではよくわからないところも多々あります。読了しても「?」な状態です。が、その「理屈では良く理解できないけれど、とにかく美しい/カッコ良い」という世界観そのものを楽しむタイプの作風なんだろうな、と鴨は感じています。
ただ、その作風が、「鏖戦」と「凍月」では真逆の作用に働いて真逆の印象を残すに至ったなー、というのが、鴨の正直な感想です。

2作の何が違うのかというと、「鏖戦」の舞台は遙か遠未来の星間宇宙、人類社会も人類そのものも大きく変容している、いわば100%想像力を働かせることができる設定であることに対して、「凍月」の舞台は近未来の月社会、現代と地続きのリアルで生々しい、その分”今”のヴィジョンと価値観を相当程度共有している/共有せざるを得ない設定であることです。

「鏖戦」は、冒頭の舞台となる原始星群<メデューサ>の描写がもぅ圧倒的な迫力で、酒井昭伸氏のクールかつトリッキーな訳文も相まって、我々読者の現在位置から最も遠く離れた時間/空間/価値観を描き出していることをまざまざと見せつけられます。登場するキャラクターたちの独創性もまたしかりで、理解できなくても仕方ないと思わせてくれるレベルの社会的距離感を感じさせます。そんな遥か遠くの世界の物語を、幻惑的な文体でスピーディーに展開しつつ、最後の最後で我々読者にも理解できる、すなわち普遍的な虚無感と哀感を静かに漂わせてスパッと幕を閉じる、この鮮やかさよ!かなり難解ではありますが、SF者たるもの、一度は読んでおくべき傑作です。

他方、「凍月」は、鴨は文庫版のレビューで「よくわからないままあれよあれよという間に読了してしまった」と書き残しておりますが、今回再読してその理由がなんとなくわかりました。
終盤のイメージの鮮烈さは、まさに「鏖戦」と同レベルの針の振り切れっぷりながら、そこに至るまでのストーリー展開が現代の人類社会と地続きの価値観に支配されているが故に、描き出されるイメージの方向性があまりにも突然レベルアップしすぎて、完全に置いていかれてしまうんですよね・・・。そのため、終盤までのストーリー展開はとてもわかりやすいにも関わらず、読了後の「?」は「鏖戦」より遥かに上ですヽ( ´ー`)ノ

というわけで、鴨的には「鏖戦」は星5つ、「凍月」は星3つ、総合して星4つ、といったところです。
読者のSFリテラシーがチャレンジされる作品でもあると思いますので、心してお読みください!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF(海外・短編)
感想投稿日 : 2023年7月22日
読了日 : 2023年7月2日
本棚登録日 : 2023年4月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする