事典 和菓子の世界 増補改訂版

著者 :
  • 岩波書店 (2018年3月29日発売)
4.17
  • (5)
  • (12)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 132
感想 : 17
5

虎屋取締役、虎屋文庫専門職の中山圭子氏によつてまとめられた“和菓子の事典”。とても広くて深い。事典だが読み物としても飽きない。
広いといえば、ありとあらゆる和菓子を網羅しているのだ。上菓子だけでなく、“あられ”や“かきのたね”、“飴”、“鯛焼き”、“焼き芋”なども立派に和菓子として取り上げられている。
深いといえば単にそのお菓子の材料や作り方や歴史を述べているだけでなく、そのお菓子が古典文学の中のどの部分に登場するかとか、そのお菓子に使われるモチーフが古代から人々にどのような印象を与えてきたかなどのエピソード、そのお菓子の製法が書かれた一番古い文献の紹介などを織り交ぜて書かれている。
例えば、“飴”が『日本書紀』の神武天皇紀の中に記述があるのを引用されていたり、“安倍川餅”が『東海道中膝栗毛』に登場すること、“亥の子餅”が『源氏物語』の「葵」の帖に登場することなど。“外郎(ういろう)”というお菓子については歌舞伎の「外郎売り」のこと、元は薬としての外郎の歴史などについて詳しく1頁ほどさいて説明された後で、お菓子の外郎の歴史について述べられている。
また、お菓子のモチーフについては、例えば“卯の花”は「卯の花重ね」「卯の花垣」などの名前で、白と緑の配色のきんとんや羊羹が江戸時代から作られているが、この配色は平安時代の装束のかさねの色目の一つになっていたことなど興味深いお話が書かれている。
古典だけではない。例えば“カルメ焼”のところでは、漫画の『じゃりン子チエ』の登場人物が長年の夢をかけてカルメ焼き専門店を始めるエピソードを盛り込んだり、とにかくこの中山氏は教養が深くて引出しが多くて、もう、読んでるだけで和菓子をじっくり味わった気分になる。写真もきれいで、絵もかわいい。
以下は私が気になった和菓子
“外郎(ういろう)”
説明やエピソード、読んでいて楽しかったのだけれど、前から気になっていたことが分からない。写真からはよく分からないけれど、“ういろう”と名古屋のほうの“ういろ”とは違うの?どちらも関西には無いから分からないんだ。

“黄身時雨”
「外側が黄身餡のそぼろで、中に白餡が入る。鮮やかな黄の色合いは、雨の上がったあとの太陽の光にも通じよう。」たまりませんなあ。多分一番好きな味だと思う。また、明治から昭和初期の菓子製法書では「君時雨」の表記があるとも。「なにやら恋しい人を時雨にみたてている詩情もあるが…」確かに。

“くず餅”
小麦澱粉を発酵精製し、蒸して作ったお菓子。東京の亀戸天神近くに店を構える船橋屋が有名だそうだ。きな粉と黒蜜がかかっていて美味しそう。
「不思議な思うのは西日本ではくず餅をまず見ないこと」そう!ホンマに!なんで無いの!食べたいやん!

“さくら餅”
この写真のような桜色の小麦粉生地に餡をくるっと巻いてその上から桜の葉で巻いた桜餅は一度しか食べたことない。友達が作ってくれたんだ。ここに書かれているように京阪では道明寺生地といって桜色の米の粒の中に餡が入っているのだ。こちらの写真も載せてほしかったなあ。

“すあま”
蒸した新粉生地に砂糖を混ぜてつくる餅状の菓子。平べったい紅白の卵形のものが、出産や入学祝いに使われるそう。見た目も名前もおっとりしていて美味しそうなんだけれど、見たことも食べたこともないのは私だけ?

“金花糖”
砂糖液を木型などに流し込み、固めて彩色したお菓子。色が綺麗。このお菓子を模したビニールの鯛にお砂糖が入ったものは見たことあるが、ちゃんと本物を作るには手間暇かかるらしい。そういえば、金沢のホテルの売店で見たことあるかな。

“辻占(つじうら)”
せんべいの中に“占い”が入っている。その原型は奈良時代の「夕占(ゆうけ)」に遡るらしい。こんなロマンチックなのが昔からあったんだね。

「年中行事と和菓子」「幻の菓子」「和菓子の歴史」などのコラムも面白い。欲をいうとしたら、「同じお菓子の別の地方バージョンの写真も載せて下さい」ということかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月20日
読了日 : 2022年11月20日
本棚登録日 : 2022年11月20日

みんなの感想をみる

コメント 14件

Reyさんのコメント
2022/11/22

Macomi55 さん
読んでいるだけで、お腹が空いてくるレビュー!

余談ですが、関西に引っ越して驚いたのが、端午の節句の〝ちまき〟が甘くて白い餅菓子だったこと。ちまきといえば、炊き込みご飯のような〝おこわ〟を私は想像していたので、中身を開けてビックリ!

Macomi55さんの地方バージョンのリクエストを読んで、ちまきでビックリしたことを思い出しました(^-^)

なおなおさんのコメント
2022/11/22

Macomi55さん、こんにちは。
美味しそうなレビューをありがとうございます。食べたくなる〜( ˙༥˙ )

ういろう大好きです。"ういろう"と"ういろ"があるんですね。
小田原にもあるんですよ。和菓子のういろうと薬のういろう。歴史的なことはちょっと分からない(ネットで読んでも今ちんぷんかんぷんで説明できずスミマセン)。
すあまも好きです。
ういろうもすあまも似ていますが、粉が違うとかナントカ(これも頭に入らず^^;)。
私は両方ともスーパーの安いのを買います。たまに無性に食べたくなるんですよね。見かけるとかごに入れてしまうお菓子です。また食べたくなってきました^^;

Reyさん、はじめまして!
Reyさんのちまきの情報は面白く思いました。私もちまき=おこわ、です!

Macomi55さんのコメント
2022/11/22

Reyさん
わーい、コメントありがとうございまーす。
「背くらべ」という童謡で「ちまき食べ食べ兄さんが計ってくれた背の丈」と鯉のぼりの日のことを歌っていますが、あれは関西限定だったんですね。
もちろん、こちらにも“おこわ”のようなのはありますが、それは中華ちまきで中華料理屋さんで売っているものです。
えっ、ちょっと待って、関東ではもしかして、端午の節句限定で、和バージョンのおこわのようなちまきがあるんですか?
この本にも“ちまき”は載っていて、ルーツは中国、楚国の屈原という政治家であり詩人であった人の死を悼み、命日の5月5日に竹筒に米を入れて供養したことが始まりだそうです。日本でも平安時代から端午の節句に作られていた記述があるそうてますが、初めは笹の葉ではなかったそうです。
今では地方色も豊かで、鹿児島や宮崎では灰汁につけたもち米を竹皮で包み、さらに灰汁で蒸したもので、飴色をしているそうですよ。

なおなおさん
こんばんは。
“ういろう”この本では平べったい形の写真が載ってますが、元は羊羹のような竿状の形をしてますか?
私が“ういろ”と言っているのは、愛知で有名な“五建ういろ”で売ってるやつで、羊羹のように竿状になっていて、羊羹のように切って食べます。白、緑、ピンクがあったと思います。さっき“ごけんういろ”と入れたら“五建外郎屋”と出てきたので、もしかしたら、こっちもちゃんと“ういろう”なのに、私が“ういろ”と思っちゃってるだけかもしれません^_^。
で、関西の端午の節句の“ちまき”の中身は私が思っている“ういろ”(orういろう)の味です。
祇園祭にはちまきを飾りますが、これは厄除けで、食べられないです。
で、“すあま”見たことないのですが、私が見てないだけなのかな。写真では、ただの紅白のお餅を卵形にしただけに見えるのですが、ういろうのような味なんですか?食べてみたいなあ。

Macomi55さんのコメント
2022/11/22

なおなおさん
“五建外郎屋”は京都のお菓子屋さんでした。ガーン。でも“ういろう”といえば名古屋ですね。

なおなおさんのコメント
2022/11/22

Macomi55さん、お返事をありがとうございます(^^)
先ほど、五建外郎屋、ういろう、ちまき、すあま…とか色々と検索していたらお腹空いてきちゃいましたよ(´ε`)
なるほど…色んな形状とか小豆入りとかあるのですね。
私がたまにスーパーで買うのは、当たり前ですがこんな高価なものではないです^^;
この本に載っているのも高級な和菓子なんでしょうね。
さて、ういろうなのですが、私が初めて食べたのは名古屋の物でした。羊羹のように切って食べたり、一口サイズというのもありますよね。色は白、緑、ピンクでした。
すあまは、「スーパー すあま」と検索してみてください。ピンクのかまぼこみたいなのが出てくると思います。それをよく食べます。
すあまの方がモチモチした感じかな。
味はういろうの方がさっぱりで、すあまの方が甘いかな。
ちまきと言えば確かに♪ちまき食べ食べ〜兄さんが〜なんて歌いますよね。
関西のちまきの中はういろうのような甘いお餅(!?)みたいな物なのですね。
こちらは関東で、多分ちまき=おこわなのですが、端午の節句にうちはちまきは食べなかったですね…^^;(うちだけかも^^;)柏餅は食べます。
"四季の行事"本で調べてみたら、「端午の節句には柏餅とちまき」「ちまきは中国由来で、柏餅は日本独自のもの」と書いてあります。
地域によって楽しみ方が違うのかな。面白いです。勉強になりました(^^)

Macomi55さんのコメント
2022/11/22

なおなおさん
検索しました。本当にカマボコみたいですね。
でも生のお餅みたいなのが、焼かずに、なにも付けずにそのまま食べられて、甘くて美味しいって最高ですよね。こんなのが東京ではコンビニでも買えるんですね。たしかに「関西では知らない人が多いと書いてありました。
子供の日のちまきは、私も実家にいるときは食べたことありませんでした。結婚してから、自分で食べてみたくて買ってきました。やっぱり柏餅のほうが沢山売ってますよ。普通の餡とか白餡とか白味噌餡とかあって美味しいです。
あと、羨ましいと思うのが“月見団子”です。この本にも、よく絵で見るような白いまん丸の団子がピラミッド形に重ねられた写真が載っていますが、関西では、まん丸ではなく里芋形で、こし餡が巻いてあるんです。
すすきと並べて絵に描かれる典型的な丸い月見団子、一度食べてみたいです。

Reyさんのコメント
2022/11/23

Macomi55 さん、なおなおさん

端午の節句で〝おこわのちまき〟は食べたことがなく、我が家は柏餅だけでした。うちの実家だけかと思いましたが、なおなおさんも一緒で安心(^-^;)。こどもの日に食べたことがないけれど、童謡や絵本からか〝端午の節句=ちまき〟はなぜか知っています。食べたことがないのに、何も疑問に思わずに成長‥。

私も結婚してから、初めて子どもの日にちまきを食べました!関西のスーパーではちまきは見かけませんが、近所の小さい和菓子屋さんで売っています。
ピンク色のすあま、美味しくて好きです♪関東にいた頃ですが、スーパーのレジ近くの和菓子コーナーにあったので、たまに買っていました。

祇園祭で厄除けのちまきと関西の月見団子、初耳です!月見団子、「こし餡ってことは伊勢の赤福みたいな感じ?」と思いネット検索をしたら、赤福ともちょっと違うんですね!白いお団子がひょっこり顔出しているみたいで、可愛い(❛ᴗ❛)♡全然知らなかったです!

なおなおさん
こちらこそはじめまして!
こちらのコメント欄を借りて恐縮ですが、東京ルール・大阪ルールのレビューを楽しく読みました♪

Macomi55さんのコメント
2022/11/23

Reyさん
そうそう、月見団子、赤福の中のお餅が細長くなって、あんこからはみ出たみたいな感じです。
お餅を月、あんこを雲に見立てているらしいですよ。

なおなおさんのコメント
2022/11/23

Macomi55さん、Reyさん、おはようございます。

関西の月見団子、調べました。初めて知りました。月と雲なんですね。面白いです。食べてみたいです。
こちらの方のすすきと月見団子、家では飾りもしません(またうちだけかな^^;)。
お二人とお話して、季節の行事にもっと関心を持ち、家で取り入れようと思いました!
関西と関東の違いを知ることができたのも良かったです。

Macomi55さんがすあまと出会えますように。
Reyさん、これからもよろしくお願いします(^^)
(Macomi55さんのこの場をお借りしました)

Reyさんのコメント
2022/11/23

Macomi55さん、なおなおさん
月と雲に例えているなんて、風情があっていいですね˚✧₊月見団子、私も来年は準備してみようと思いました!和菓子について色々と知れて、コメント楽しかったです。これからも宜しくお願いします☻

Macomi55さんのコメント
2022/11/23

Reyさん
こちらこそ楽しかったです。これからもよろしくお願いいたします。

なおなおさんのコメント
2023/05/06

こんにちは。お久しぶりです。
昨日はかしわ餅、今日はちまき風のかしわ餅!?(味は同じ。いずれもスーパーの安いやつ)を食べながら、お二人と、このコメントのやり取りを思い出しちゃいました^^;今年のこどもの日は何か食べましたか?
またお店で“すあま”を見かけるとMacomi55さんを思い出します。
あれから出会ったかなぁ(ღ˶ᵕᴗᵕ˶)。o♡

Macomi55さんのコメント
2023/05/06

なおなおさん
こんにちは!お久しぶりです。
GWもあと1日ですね。
私もスーパーの安い柏餅を食べましたよ。
色の濃い緑色の葉に包んだほうが粒あんで、色の薄い葉に包んだほうが、こし餡でした。これ別に関西だからどうこうの話ではないですが。
ちなみにデパ地下で行列して買った店では、以前“白味噌あん”というのもありました。これは京都ならではかな?

なおなおさんのコメント
2023/05/06

Macomi55さん、GWもあと1日…もう終わっちゃう(;_;)
私は「まだ1日もある!」とは考えられないマイナス思考者です。落ち着かない…^^;
白味噌あん!こちら関東にはないと思います。地域によって違うのは面白いですね!
お返事をありがとうございました(^^)

ツイートする