虎屋取締役、虎屋文庫専門職の中山圭子氏によつてまとめられた“和菓子の事典”。とても広くて深い。事典だが読み物としても飽きない。
広いといえば、ありとあらゆる和菓子を網羅しているのだ。上菓子だけでなく、“あられ”や“かきのたね”、“飴”、“鯛焼き”、“焼き芋”なども立派に和菓子として取り上げられている。
深いといえば単にそのお菓子の材料や作り方や歴史を述べているだけでなく、そのお菓子が古典文学の中のどの部分に登場するかとか、そのお菓子に使われるモチーフが古代から人々にどのような印象を与えてきたかなどのエピソード、そのお菓子の製法が書かれた一番古い文献の紹介などを織り交ぜて書かれている。
例えば、“飴”が『日本書紀』の神武天皇紀の中に記述があるのを引用されていたり、“安倍川餅”が『東海道中膝栗毛』に登場すること、“亥の子餅”が『源氏物語』の「葵」の帖に登場することなど。“外郎(ういろう)”というお菓子については歌舞伎の「外郎売り」のこと、元は薬としての外郎の歴史などについて詳しく1頁ほどさいて説明された後で、お菓子の外郎の歴史について述べられている。
また、お菓子のモチーフについては、例えば“卯の花”は「卯の花重ね」「卯の花垣」などの名前で、白と緑の配色のきんとんや羊羹が江戸時代から作られているが、この配色は平安時代の装束のかさねの色目の一つになっていたことなど興味深いお話が書かれている。
古典だけではない。例えば“カルメ焼”のところでは、漫画の『じゃりン子チエ』の登場人物が長年の夢をかけてカルメ焼き専門店を始めるエピソードを盛り込んだり、とにかくこの中山氏は教養が深くて引出しが多くて、もう、読んでるだけで和菓子をじっくり味わった気分になる。写真もきれいで、絵もかわいい。
以下は私が気になった和菓子
“外郎(ういろう)”
説明やエピソード、読んでいて楽しかったのだけれど、前から気になっていたことが分からない。写真からはよく分からないけれど、“ういろう”と名古屋のほうの“ういろ”とは違うの?どちらも関西には無いから分からないんだ。
“黄身時雨”
「外側が黄身餡のそぼろで、中に白餡が入る。鮮やかな黄の色合いは、雨の上がったあとの太陽の光にも通じよう。」たまりませんなあ。多分一番好きな味だと思う。また、明治から昭和初期の菓子製法書では「君時雨」の表記があるとも。「なにやら恋しい人を時雨にみたてている詩情もあるが…」確かに。
“くず餅”
小麦澱粉を発酵精製し、蒸して作ったお菓子。東京の亀戸天神近くに店を構える船橋屋が有名だそうだ。きな粉と黒蜜がかかっていて美味しそう。
「不思議な思うのは西日本ではくず餅をまず見ないこと」そう!ホンマに!なんで無いの!食べたいやん!
“さくら餅”
この写真のような桜色の小麦粉生地に餡をくるっと巻いてその上から桜の葉で巻いた桜餅は一度しか食べたことない。友達が作ってくれたんだ。ここに書かれているように京阪では道明寺生地といって桜色の米の粒の中に餡が入っているのだ。こちらの写真も載せてほしかったなあ。
“すあま”
蒸した新粉生地に砂糖を混ぜてつくる餅状の菓子。平べったい紅白の卵形のものが、出産や入学祝いに使われるそう。見た目も名前もおっとりしていて美味しそうなんだけれど、見たことも食べたこともないのは私だけ?
“金花糖”
砂糖液を木型などに流し込み、固めて彩色したお菓子。色が綺麗。このお菓子を模したビニールの鯛にお砂糖が入ったものは見たことあるが、ちゃんと本物を作るには手間暇かかるらしい。そういえば、金沢のホテルの売店で見たことあるかな。
“辻占(つじうら)”
せんべいの中に“占い”が入っている。その原型は奈良時代の「夕占(ゆうけ)」に遡るらしい。こんなロマンチックなのが昔からあったんだね。
「年中行事と和菓子」「幻の菓子」「和菓子の歴史」などのコラムも面白い。欲をいうとしたら、「同じお菓子の別の地方バージョンの写真も載せて下さい」ということかな。
- 感想投稿日 : 2022年11月20日
- 読了日 : 2022年11月20日
- 本棚登録日 : 2022年11月20日
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