コクと旨味の秘密 (新潮新書 135)

著者 :
  • 新潮社 (2005年9月16日発売)
3.57
  • (8)
  • (15)
  • (23)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 198
感想 : 27
4

久々の「ネタ本」シリーズ。日本人が美味しさの表現方法の1つとして使う「コク」というものが何なのか?を様々な観点から考察した本。正直いってバカげているが、その突き抜け感が最高に良い。

日本人にとって「コクがある」という表現はあまりにも乱用されすぎている。食品の美味しさを表現する時に、濃いめの味付けがされているものや、味わい深いものに対してはおしなべて「コクがある」と表現されることが多いが、実際問題コクの意味を正しく理解して使っている人は殆どいないと思う。旨味があることの総称としてコクという表現を使うが、そのコクの正体に迫ったというかなり挑戦的な内容だ。

とはいえ、著者は食品・栄養化学を専門としているので、本来はコクや旨味よりも食物の栄養価について詳しい専門家といえるのだが、この2つが密接に絡み合っているという点が非常に面白い。

著者曰く、コクは3層構造となっており、中心部をなす「コアーのコク」と、その周りを取り囲むように「第二のコク」「第三のコク」があるという。

コアーのコクは、「糖分」「脂肪」「ダシ(旨味)」の2つであり、それらは全て生命にとって重要な栄養素を含んでいる、これら3つの要素のうち単独あるいは複数の組み合わせによってコクは成り立っていると著者は見ている。動物実験でも他の栄養素には固執しなかったにも関わらずこの3要素だけには固執する性質が見られるようで、人間にとってはまさに無意識に、本当としてコクに惹かれている、というわけである。面白のは、コレ以外の成分、たとえば塩分や酸味には、動物実験のマウスも執着しないという点。味を整えるのに塩やお酢を使ってもコクを深めることにはつながらない。

食品の美味しさを追求していくと最終的に必ずこの3要素に行き着くことは料理人や食品関係者の間では常識中の常識だそうで、料理に深みを与えるためには、砂糖か油かダシを足すのは必然。もし著者の言う通り、コクが生物学的に欲している
ものだとしたら、我々が塩分や香りがやたら強い欧米の食事を日本人が好まないのは、日本人がよりコクに執着的であり、生物として飢餓の期間が強かったのかもしれない。

第2のコクとは「食感、香り、風味」だが、これは人類が経験的に学習した第一のコクにつながる「連想」でしかない。それ単体ではコクとは呼べず、第二のコクは第一のコクとつながってはじめて意味を成す。たとえばとろみや粘り、甘い香りなどといったものだが、この分類をきちんと分けている点はかかり面白い。
そして更にその外側にある第3のコクとは「精神性の世界」。味という枠を飛び出して、たとえば「コクのある演技」「人生のコク」といった表現の世界を指す。この食品と直接結びつかない世界にも定義を置いている点も面白かった。

他にもエピソード形式でいろんなお話を織り交ぜて語ってくれる本なので非常に読みやすい。薄いので一気に読み切ってしまったのだが、本来読みたいビジネス系・自己啓発系・史実系の合間にこの手のネタ本を挟むと脳がほっこりする。
他にもいくつか似たようなネタ本を積ん読してあるのでまた機会を見て読んでいきたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ネタ本
感想投稿日 : 2021年8月21日
読了日 : 2021年8月7日
本棚登録日 : 2021年8月21日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする