万葉ポピュリズムを斬る

著者 :
  • 講談社 (2020年10月7日発売)
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感想 : 5
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「令和」の「元号」が発表されたときに、注目された「万葉学者」品田悦一さん。

品田さんは、「令和が万葉集からやってきたというが、その参照もとの大伴旅人の言葉には、中国の古典への参照リンクが存在し、そちらの文脈も踏まえて読めば、「令和、云々」の文章は、太宰府にいた大伴旅人が都の政治を批判したものと読むことができる。そして、それを理解せずに、また万葉集は、天皇から庶民までが素直な気持ちを歌ったすばらしい日本文化の象徴であるみたいな数十年前に棄却された説を引用する政治家は信用できない」みたいな主張をSNS上で発して、話題?になった。

そういう経緯もあって、品田さんの「万葉集の発明 国民国家と文化装置としての古典」が20年ぶりに新装版ででて、わたしも即買いした。

この「万葉集の発明」は、タイトルからもわかるようにベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」の日本版とでもいうもので、「万葉集」が国民国家としての日本をつくるために明治以降にその位置付けを「国書」として位置付けられたものという話。(もちろん、もともとのアイディアは「想像の共同体」かもしれないが、それを具体的に様々なテキスト分析のなかから論証していくことは別の話。これは、極めて説得力のある分析だと思う)

そんな感じで、にわか品田ファンになったのだが、そのもとになった令和と大伴旅人についての文章を起点に「万葉集」の「政治利用」的な文章や講演記録などをまとめたのが本書。

話題のSNSの文章では、まだよくわからなかった点がかなり詳細に説得力をもって説明されているし、品田さんの怒りの根っこがとてもよくわかる。

一般の人を対象とした文章なので、わかりやすいのだが、分析の内容のレベルはとても高い。文学理論でいうところのテクスト・クリティーク、間テキスト性なでを踏まえた読解で、思わずうなってしまう。

まえがきが、品田さんのお父さんへの弁明になっていて、つまり、「万葉学者」の息子が、「令和」について人騒がせなことを言っていて、父にも迷惑がかかっているだろうが、許して頂戴的な話し。とてもユーモラスに書かれているのだけど、想像するに、いろいろ大変なことが起きていたと思う。それでも、「万葉学者」として、これは言わなければないんだみたいなところに感動した。

「万葉集」の政治利用なんだな〜。やっぱ。

「万葉集」はすばらしいものなんだけど、これを「天皇から庶民までみんな歌を読んでいた素晴らしい日本国民 ・・・美しい国」と位置付けることで、明治時代には、外国への対抗として利用したし、これはそのまま「そういう素晴らしい国を守るための戦争」という言説を形成していった歴史があるのだ。

そして、今、個人の多様性を脇に置いて、一つの日本文化というかたちで美化して包含してしまおうとする政治的な言説が存在することに意識的であらねばと思った。

これは、「万葉学者」だからこそ発された品田さんのメッセージであるとともに、遠く時代を超えて大伴旅人からのメッセージでもあるのだ。

と書くと難し気になってしまうが、基本的には前提知識なしに読める。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年3月5日
読了日 : 2021年3月5日
本棚登録日 : 2021年3月5日

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