スピノザについて、これまで読んだなかで、一番、わかりやすかったかな?
著者は、純粋な哲学者ではなくて、ジャーナリストだったり、宗教関係の雑誌の編集やいろいろな活動に関わっている人。本も幅広い。
というわけで、スピノザの人と思想という感じで、すらっと読める本になっている。
が、単純なスピノザ入門ではなくて、著者独自の解釈を提示していて、それはスピノザとキリストとの関係。
スピノザの主著(?)は、いうまでもなく「エチカ」なんだけど、第2の主著というもいうべき「神学・政治論」というのがある。これは、タイトルどおり、政治と宗教について本で、宗教に対しては基本的には批判的。と言っても、全部を切り捨てるわけではなく、その時代背景や社会的コンテキストなどを踏まえて、迷信的なものとそうでないものを切り分けていく批判的な解釈のアプローチを提案している。
そういうなかで、キリスト自身については、スピノザは共感的で、いわば人間キリスト、そしてそこにスピノザ的な神や精神の永続性みたいなのを見出せると主張。
スピノザは、基本、無神論的に捉えられることが多くて、「神学・政治論」でのキリストに関する記述は、当時の政治情勢のなかで、キリストを全否定すると命の危険があるので、リップサービス的に書いたんのではないかという理解が多いように思う。
が、著者は、「エチカ」の人であるスピノザがそんな姑息なリップサービスをするわけないじゃないかと文字通りに文章を解釈しつつ、自身のキリスト像と結び付けていく。
この辺のところが、賛否両論ありそうだけど、面白いところ。
で、さらに面白いのは、この本の原稿をスピノザ学者のロベール・ミスライに送ったら、そのレスポンスで生まれた往復書簡を巻末に記載しているところ。
ミスライは、この本はわかりやすくてよいといいながら、ルノワールの主要な論点であるスピノザとキリストの関係をほぼ全否定。あと、スピノザと無意識という論点もかなり批判的。で、それに対するルノワールの反論もなんだかで議論は平行線。。。。
これを本にのせるのって、普通しないように思えて、ここにルノワールの誠実さみたいなのを感じた。
いずれにせよ、こうした議論に最終解はない。あとは、自分自身で考えてほしい、というメッセージを受け取った。
- 感想投稿日 : 2020年8月7日
- 読了日 : 2020年8月7日
- 本棚登録日 : 2020年8月7日
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