ヴェネツィアでプルーストを読む

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  • 集英社 (2004年2月5日発売)
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---いつか私はプルーストを旅のガイドとして読むようになった---

という冒頭の一行に、ハッとさせられた。
たしかに、『失われた時を求めて』の文中には、たくさんの都市や町が、舞台及び回想の中に現われる。
プルーストの詳細な描写は紀行小説としても十分威厳のある書物といえる。

そして、著者の鈴村さんはもう一つの提言をする。

『失われた時を求めて』のなかで、ヴェネツィアを語り手が訪問し、水の都ヴェネツィアが、直接的舞台となっているのは、この長大な小説の中の第六篇「逃げさる女」の一章に過ぎない。
しかし、『失時』を仔細に読むならば、コンブレーもパリもバルベックもほとんど常にヴェネツィアに置き換えることができる換喩的な関係で語られており、プルーストにとって特権的な位置を占めるプルーストの場所は、ヴェネツィアであるという。

著者の鈴村さんは、横浜市立大学教授でランボー論などを書かれている方だが、
『失時』を仔細に読むとヴェネツィアが全体的にこの長編を覆っているということに、私は気づくことが出来ない。

プルーストのコンブレー、または、パリ、または、バルベックへの思い入れに素直に同調したまま本書を読み進む。

プルーストは、1900年にヴェネツィアを訪れている。
5月と10月、合わせて40日ほどの滞在だったようだ。
『失時』で描かれているヴェネツィアのホテルは、ダニエリなのか、エウローパなのかで議論があるようだが、著者は、エルローパのテラスでアドリア海を眺めるところから、プルーストの足跡を追う。

ヴェネツィアを発ち、次は、アミアン、ルーアン、リジュー、カンブルメール、カン、またリジュ、バルベックの舞台と言われるディーヴ・カブール。
グランド・ホテルは、駅から徒歩30分だそうだ。
このフランスのノルマンディの著者の足跡を、私は地図を広げながら確認していく。

この本には、いい写真もあるのだが、カラーではなくモノクロであったり、
プルースト及び著者の旅の足跡を地図で表記してくれればずいぶん有難いのにと強く感じる。

次に著者は、オランダに足を伸ばす。
プルーストは1902年にオランダに旅行をしている。
『失時』の中で舞台としてオランダが登場することはないが、アルベルチーヌにアムステルダムのことを語らせたり、フェルメールの≪デルフトの眺望≫は、非常に重要な役割を『失時』では演じている。

オランダからレマン湖、ミラノ、ヴェローナと南下し、(なぜかパリはとばして)再び著者は、ヴェネツィアに入る。

著者はプルーストの旅をなぞりながら、『失時』の文章を耽読する。至福の旅である。

ヴェネツィア、その魅惑の水の都は、プルーストの描いた小説の世界のように迷宮であり、水のゆらめきのなかに失われ、あるいは見出された時を映しているのかもしれない。

最後に、「付」と題して、ダニエリとエウローパ という文章を著者は書いているが、
25歳の女性編集者とダニエリとエウローパとふたつのホテルをはしごするという話で、朝のシーツの描写など、やけにリアルである。
このほかの、文章は、一人旅で、レンタカーをフランスで借りて起こったちょっとしたアクシデントなどを織り交ぜながら、忠実にプルーストの世界を追っていたような印象の文面が続いたのに、最後の色恋物の意図がよくわからなかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年8月25日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年10月1日

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