使用人と雇用主あるいは親と子の心理的真剣勝負、男主人の不在、障害や病をもった家族、アメリカ南部でクリスチャンとして生きるということ、などなど、わりと共通するモチーフで連なる短篇集。たしかにルシア・ベルリンにも通じる(と友人に勧められ、読みはじめた後で川上未映子もそう言っていたことを知った)し、文体も好みでどんどん読めた。で、読み終わってどれが一番よかったかなあとぱらぱら振り返ってみると、似ているようですべてが粒だって甲乙つけがたい。『矯正追放者』や『火の中の輪』の「くるぞ、くるぞ…ああ、やっぱり」っていう破滅にじわじわ向かうスリルもいいし、『人造黒人』のおじいちゃんが思わぬ失言で神の憐れみを知るというのも味わい深いし、初期短編(これが修士論文だったとは、なんたる才能か)の『ゼラニウム』のおじいちゃんや『床屋』のリベラル学者(←こういう人ツイッターとかに今も居そう)のけっして他人事じゃない無様さもいい。でも、一番は『田舎の善人』ですかね。そりゃあジョイからハルガに改名したくもなろうし、最後の展開もあっと驚くし、何よりミセス・ホープウェルがとても他人とは思えなかった。わたしもしたり顔で「なにを言うの!田舎の善人は地の塩です!それに、人間のやり方は人それぞれなのよ。いろんな人がいて、それで世の中が動いていくんです。それが人生というものよ!」とか言ったあげくに痛い目に遭いそう。怖い怖い、気を付けなきゃ…。というわけで上巻だけでけっこう満足してしまったが、いずれ下巻も読みたい。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年1月6日
- 読了日 : 2020年1月6日
- 本棚登録日 : 2020年1月6日
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