サガとエッダの世界―アイスランドの歴史と文化 (そしおぶつくす)

著者 :
  • 社会思想社
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文学よりのアイスランド史。
発見と植民から一応(出版時の)現代までだけど、メインは中世。
アイスランド文学が咲き誇った900年代からノルウェー支配までの300年を扱う。

そんな古い時代の話なのにテキストを読み解けるのは、アイスランドに膨大な資料があるから。
すなわちサガ、エッダ、スカルド詩という詩や散文による記録。
古い記録は物語化した英雄譚になりがちなものだけれど、アイスランドでは淡々と事実を記録するような形式が隆盛したらしい。
最初に植民した人達の個人の歴史や事件を記したものがたくさん残っている。

それらの史料をふんだんに引用しながら語られる歴史がすこぶる面白い。
調べきれない部分もあるけれど、まずは楽しんでアイスランドを知ってね、という姿勢で書かれている。その通りに楽しい。
ここは事実としてはあやしいけれど当時の理想の形として読めばいいよとか、ここはこうらしいけれど自分はそこまで詳しくないのではっきりしたことはいえないとか、書き方が誠実だ。
良い方向に学術してる。

はしがきで著者の格好よさにノックアウトされた。
こんなにすごい人なのにまだ学びたがっている。
「これ面白かったよ!」という無邪気な嬉しさを、膨大な知識の裏付けを隠した易しい言葉で語ってくれる。
しかも文章が美しい。歴史書なのに。文学者すげえ。
文章を読むこと自体が楽しい。もちろん内容も興味深い。

千年前の詩でさえ違和感なく面白いのは山室訳の力もありそうだ。
北欧神話も読みたい。ちょこちょこ知っているエピソードが出てくるのは、いろんな国に影響を与え与えられしているからだろうか。
また知りたいことが増えてしまった。


この本が出版されたのは1982年。
はしがきによると実は更にその15年前に出した本の新装版だそうな。
というわけで古い。現在のアイスランドはもちろん載っていないし、キリスト教=文明・異教=野蛮という価値観も気になる。
ただこれは、キリスト教圏の史料しかない時代に書かれたものだから仕方ないだろうとも思う。
そういう価値観があってなお、アイスランドへの敬意は失われていない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 地理・歴史(大枠・流れ)
感想投稿日 : 2013年6月16日
読了日 : 2013年6月15日
本棚登録日 : 2013年6月15日

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