精霊に捕まって倒れる――医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突

制作 : 江口重幸 
  • みすず書房 (2021年8月4日発売)
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感想 : 12
5

とてもおもしろかった。前のめりで読んだ。

最新刊、と思って読んでいたけど、これは「15周年記念版」の訳で、最初に出版されたのは、1997年なんですね。
帰化や難民受け入れについては、ずっとほぼ鎖国の日本ではまだまだ実感すら追いついていないテーマなんですが、アメリカではもうおなじみのテーマなんだろうか。それとも、やっぱりアメリカでもまだまだなんだろうか。そんな疑問を感じながら読んだ。
でもたぶん、こういうのはどこの地でもどの歴史でもどの民族にとっても、きっと永遠にいつまでも新しいテーマであり続けるんだろうな。

しかし、異文化受け入れに対して、自分は柔軟な方・・・と思いたいのはやまやまだが、この本を読んでいると「いや・・・モン族、私には無理かも・・・」などと大変に失礼なことを早々に思ってしまった。
駐車場でブタの生贄の儀式するとか、想像しただけで、ひぃぃぃぃ!
しかもリアのおうちの場合、何気なく読んでいたら場合によっては一カ月に1回くらいの頻度でその儀式をしている様子。
もし私が隣人だったら、私は露骨に嫌わないで理解を示せるだろうか。
示せる、と信じたいけど、正直分からない。引っ越すかも・・・

この本に登場する医師たちには心底同情した。
医師にもいろんなタイプの人がいて、異文化(モン族の患者たち)に対し、彼らの様々なリアクションが紹介されていたが、たとえ結果として間違ったふるまいをしていたとしても、彼らを責めることなんてとてもできないと思った。
モン族が手首に巻いている紐を問答無用で切るのはさすがに必要ないんじゃない?とは思ったが、「ダが魂を盗んだから」とか言う話などは、私が医師だったら、緊急時に最後まで腹を立てずに冷静に耳を傾けることはできないような気がする。

考えてみれば、異文化と言っても、アラビア数字くらいは分かるだろう、とつい思ってしまうので、数字も読めない人たちとの医療的なコミュニケーションは、今でもやっぱり難しいだろうな。異文化衝突についての理解が当時よりも進んでいる今でも。
だけど、リアがイキイキつやつやとして30歳まで生きたことは無視していい事実ではないと思う。つまり、常に片方だけが間違っているということはないはず。
リアが長生きしたことの裏に家族の献身(犠牲、と見る人もいるしれない)があることも無視できないが。

以上はさておき、モン族の歴史、CIAとのかかわり、長い旅路の記録は、非常に興味深かった。
しかし、CIAって、この手のエピソードが次から次へと無尽蔵に出てきますなぁ・・・。
モン族の人たちが、この歴史的事実を伝えるよう尽力しているのはもっともな話だと思った。


後日追記---------------

NHKの映像の世紀の新シリーズ「バタフライ・エフェクト」の「ひとつの友情がアメリカを変えた」の回を見ていたら、アメリカのとある新聞社社長が、日系移民を評して書いた言葉が引用されていた。(たぶん戦前の言葉?)
「日系人はすべての民族の中で最も同化しにくく危険な存在である。自分の民族に強い誇りを持つ彼らは融合するという考えをまったく持ち合わせていない」

思わず笑ってしまった。
この本のモン族と同じようなことを言われている・・・。(もっとひどい?)
つまり、程度がどうあろうと、どんな文化だろうと、受け入れる側にとっては、異質なものはみんなつまりは等しくひどい厄介者だってことですね。
きっと移民第一世代がある種の踏み台になるのは避けられない宿命なのかなぁ、と思った。そうした世代の必死の試行錯誤ともがきを経て、彼らの子供、孫の代で少しずつ融合していくのかな。
こういうのは古くて新しいテーマの一つで、きっと紀元前からずっとそこにある問題なんだろうと思う。

しかし、バタフライ・エフェクトのシリーズ、分かりやすくてキャッチ―でおもしろい。
この友情の回は、ダニエル・イノウエがかっこよくてクラクラした。落ち着いた物腰が素敵すぎた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2022年10月1日
読了日 : 2022年9月30日
本棚登録日 : 2022年9月30日

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