積みすぎた箱舟 (福音館文庫 ノンフィクション)

  • 福音館書店 (2006年9月15日発売)
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本棚登録 : 263
感想 : 16
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1947年、動物が大好きなイギリスの青年が憧れのアフリカに降り立ち、動物を採集するノンフィクション。

英領カメルーンを舞台に繰り広げられる冒険譚である。文化の違いに呆れることはあってもカメルーンの人々を対等な人間としてみているダレルの目線、生き物が好きで好きでたまらない気持ちがあふれ出したような語り口で、今の価値観には馴染まない植民地主義や動物採集などにも眉をひそめるような気にはならなかった。

行動をともにした現地のハンターは一人一人名前が書き残され、個性の違いが読者に伝わるほど生き生きと描かれている。ダレルは雇った黒人を狩猟に行かせ宗主国の旦那として待っているようなことはしない。彼らと一緒に森や洞窟に入り、一緒に動物に齧られ、虫に刺され、川で怪我をする。狂犬病や破傷風になりはしないかとはらはらしながら読んだ。
訳もよく、「ナ、旦那、ビーフはいないよ」「エー……、アエー!」といったピジン・イングリッシュ(現地の英語)で交わされるテンポのよい話し方がうつってしまいそうだ。

捕った動物たちの檻を作り、日夜給餌し、アリから守りと、地味で大変な仕事なはずの世話も、現地スタッフとのドタバタとともにユーモアを満載して書かれている。また、自然界では特定のものしか口にしない生き物を、人間の与える餌に慣らしていく過程などにプロの技術も垣間見ることができて興味深い。

蛇や爬虫類は苦手だったが、ダレルが毒蛇ももろともせず、好意的に描写するので、かわいく親しめるもののように思えてくる。山地や木々の描写も素晴らしく、おそらく蠅だらけで、獣のにおいのする場所であろうに、ダレルの目を通すと世界があまりにも美しいので羨ましくすらあった。
ダレルの森や生き物を愛する気持ちが読者にも伝染するような本だった。読むと地球が少し好きになる。ほかの著書も読みたいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2020年8月29日
読了日 : 2020年8月28日
本棚登録日 : 2020年8月28日

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