エンジェル・ミートパイ

著者 :
  • 宝島社 (2003年2月1日発売)
3.57
  • (18)
  • (18)
  • (59)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 138
感想 : 25

表題作「エンジェル・ミート・パイ」を中心に、7本の作品が収録された短編集です。

主に「エンジェル・ミート・パイ」について記述します。

幼少時のトラウマから、人の顔が紙袋をかぶっているように見える「エナ」。
偶然出会った、唯一人間の顔に見える「リカ」に救われ交流を深めますが、リカには精神的な欠落があり……。

というファンタジックな物語が、「ノベル・コミック」と呼ばれる漫画内に多くのテキストを含む形式で語られていきます。


序盤でエナの傷が丁寧に描写され、それによってリカとの出会いが鮮烈に感じられる構成が見事です。
エナにとって、リカがいかに稀有なものであるか。
読み手にそれを充分に理解させた上で展開される、ふたりが身を寄せ合うシーンは儚くも美しく、疑似母娘の関係を構築していく様子には「ふたりの幸福がいつまでも続けばいいのに」と思わずにはいられません。

ラストシーンについても暗喩的・寓話的な要素が大きく、解釈の幅が広いところからも、非常にすぐれた作品であると言えます。


一方で、終盤で起きる展開が愛や救済と呼べるのかは、個人の感想によるところが大きいと感じました。

この作品の構造を読み解くと、根幹には当時流行した「ケータイ小説」があるのがわかります。
女性同士の物語であるために気が付きにくくありますが、

「心に傷を抱えた主人公が同じく辛い境遇を持つ人物と出会い、幸せな時間を過ごす。しかし、相手は……」

という展開が「ある手続き(ネタバレのため伏せます」を経て幸福なものとして捉えられる構図は実に「ケータイ小説」的で、あまり納得のいかない点もありました。


一貫して無垢なもの・清らかなものとして描かれるリカですが、彼女の振る舞いは暴力的ともいえます。
疑似母娘から違う関係になったと捉えられるラストから逆算し、彼女を「異性」という視点で見た瞬間、果たして同じように「無垢な天使」と言えるのか。
その面については疑問が残ると思いました。

このように、多様な解釈や考察の余地のある読み応えのある作品集です。
表題作以外も質が高く、付属の音楽CDも含め、著者の世界観に興味関心のあるかたには強くお勧めします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年1月11日
読了日 : 2016年1月2日
本棚登録日 : 2016年1月2日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする