神の水 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房 (2015年10月25日発売)
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感想 : 2
5

『ねじまき少女』のパオロ・バチガルピが描く近未来のアメリカ西部SF。
もともと砂漠を灌漑と地下水利用で緑化していた西部各州は、水の枯渇によって危機的状況に陥る。
高度な水再生環境のある施設に住める人間以外は、わずかな水を求めて給水施設のまわりに集住しスラムを形成する。近代的な住宅は水を潤沢に使えないために放棄される。もともと自治権の強い各州は、水を求めて流入する他州住民を防ぐために州境を封鎖、州軍によって侵入者を排除している。
その中で河川の水利用については水利権の有無が重要になり、各州・各都市の水道局や関係者は水利権をめぐって裁判、水工作、時には水戦争を起こしている。

そんな世界の中で、元メキシコ出身でゴロツキから成り上がったラスベガスの水工作員、アリゾナ州フェニックスで貧困生活をしているテキサス州からの難民少女、同じくフェニックスで滅びる街の状況を取材し続けている女性ジャーナリストの三者の視点から、コロラド川に関する、過去未発見の、非常に上位の水利権をめぐる争いが描かれる。

高度な水再生環境、みたいな技術的側面もあるんだけれど、基本は水が枯渇した米西部、という現実にも危険視されている現象が起こった場合の、政治や経済の状況なんかを中心に描く感じのSF。
短編「タマリスクハンター」の世界を長編化したもの。

いったん読み始めたら止められなくなってぐいぐいと・・・難民少女はかなり悲惨な状況だけど、他の登場人物は『ねじまき少女』に比べるとマシ(マシ、程度だけど)な状況ではあって、多少は心理負担も少なく、その分ますますすいすい読めた。
バチガルピは長編のほうが肌にあっているのかもしれない。こういうのかなり好きだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説・文学
感想投稿日 : 2015年11月20日
読了日 : 2015年11月20日
本棚登録日 : 2015年11月20日

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