実力も運のうち 能力主義は正義か?

制作 : 本田由紀 
  • 早川書房 (2021年4月14日発売)
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感想 : 196
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サンデル先生の講義シリーズが好きで、今回は著作に手を出したのだけど、例を変えながら同じ所にぐるぐる戻ってきているみたいに思えて、読み進めていくのに時間がかかった……。

能力主義(功績主義)つまり「努力と才能で、人は誰でも成功できる」という激励の言葉に、違和感を感じるだろうか。

偏差値的に高い学校を目指して努力を重ね、ゆくゆくは有名な企業に入り、高額なお給料を貰うというストーリーは、ある意味平凡なものだ。

けれど、努力を重ねる以前に、生まれている前提条件、生育環境で既に差はついている。
誰もが努力をすれば成功するのではなく、成功する可能性自体、生まれた時に決まっていると言えるのかもしれない。

そんな前提を無視して、地位と名誉を得た人は、その能力を「正しい」ものであるかのように評価されている。果たして、そうなのだろうか。

職業の価値や給料の多寡、そして自身の能力は、ある意味、単なる偶然から成り立っている。
そして、自身が進んできた道は、自身の功績によるものだ、とだけ思うのではなく、偶然が作用した結果だと思うことで視界は広がる。

富める者がますます富み、貧しい者は「自身の能力」を呪うしかない社会を覆すには。
サンデル先生の共通善の在り方は面白い、しかし、私たちはそこに戻っていけるのだろうか。

巻末の本田由紀先生の解説も、非常に面白い。
「日本は「メリット(功績)の専制」というよりも、「能力の専制」と言える状況にある。些末な違いと考える読者もいるかもしれない。しかし、人びとに内在する「能力」という幻想•仮構に支配されている点で、日本の問題のほうがより根深いと筆者は考えている」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2021年
感想投稿日 : 2021年4月30日
読了日 : 2021年4月30日
本棚登録日 : 2021年4月30日

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