世紀の落球-「戦犯」と呼ばれた男たちのその後 (中公新書ラクレ 697)

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  • 中央公論新社 (2020年8月6日発売)
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野球は筋書きのないドラマ。時に試合の流れを変えるエラーもある。世紀の落球の当事者3名の取材の先に見える人生。

「人生にエラーはつきものだ。大事なことはそのあとをどう生きるかだ」ビル・バックナー(1986年ワールドシリーズ第6戦でサヨナラエラーしたレッドソックスの1塁手)

本書の主役は3名。いずれも野球マニアには知られたエラー。

GG佐藤は西武ライオンズの外野手。2008年の北京五輪、二度の落球により日本はメダルを逃す。

加藤直樹は星稜高校の一塁手。1979年夏、箕島高校との伝説の一戦は延長16回星稜1点リードで2アウト。捕球すれば試合終了のフライを加藤は転倒し捕球できない。このプレーの後、この打者が同点ホームラン。結局試合は延長18回箕島のサヨナラ。

そして阪神の外野手池田純一。1973年、ON を擁し8連覇中の巨人を追うタイガース。池田の転倒したプレーによる逆転負け。投手が江夏だったなので江夏の評伝に必ず出てくるプレー。引退後球界を離れても心無い阪神ファンからのバッシングは続く。傷心の池田がテレビで見たのが冒頭のバックナーのプレー。池田は後にバックナーに会いに渡米する。

エラーを受け入れるまでの葛藤。エラーがあったからの出会いと人の優しさなど。一つのプレーを掘り下げた取材と筆力は素晴らしい。はからずも読者も含めた人生賛歌となっている。

星稜と箕島の交流はその後も続く。箕島の尾藤監督が加藤に送った色紙の言葉。
「岩もあり木の根もあり ファーストフライもあれど さらさらと たださらさらと 水は流れる」

野球を愛する全ての人に捧げる感動作です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: プロ野球
感想投稿日 : 2020年8月9日
読了日 : 2020年8月8日
本棚登録日 : 2020年8月8日

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