作家夫婦の過ごす富士山麓の別荘。何気ない平凡な日常が独特の感性で瑞々しいものになる。日記文学の不思議な魅力。
作家武田泰淳の妻の百合子。富士山麓で夫と過ごした昭和39年7月から51年9月までの日記。中公文庫で全三巻。そのうち中巻は昭和41年10月から44年6月まで。
赤坂の自宅と富士山麓の別荘との往復の暮らし。毎日の買い物と少しずつ変化する季節。ちょっとした自然の描写が面白い。ごくごくありふれた日常であるのにこれだけヴィヴィッドに描かれるのが不思議な魅力を創り出している。筆者独自の感性と世界観が産んだ奇跡なのだろう。
中巻の大きな出来事は愛犬ポコ。あまりに唐突な出来事に驚き。筆者の喪失感までも本作では淡々と描かれている。感情を廃した記述により大きな感情の動きがこんなにも表現できるとは。
別荘仲間で同じ作家の大岡昇平がしょっちゅう登場するのも平凡な日常に変化を添えている。気さくな友人の存在ってやはり人生に必要。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日記
- 感想投稿日 : 2021年12月4日
- 読了日 : 2021年12月4日
- 本棚登録日 : 2021年12月4日
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