東京裁判のインド代表判事として知られるラダビノド・パルの評伝。周知の通り、被告全員無罪の少数意見から歴史修正主義者・国粋主義者によって神格化されているパルだが、本書ではインドや英国の公文書をはじめとする内外の一次史料や、一般の東京裁判研究者が語学上読めないであろうベンガル語資料に加えて、パルの子息や親族のオーラルヒストリーを駆使して、その実像を厳密に実証している。「ガンディー主義者」「絶対平和主義者」、あるいは東京裁判判事唯一の国際法の専門家というような俗説は誤りで、少なくとも東京裁判以前には国際法の業績はなく、また独立前はガンディーとも国民会議派とも関係がなく、むしろヒンディー至上主義的な右翼勢力やボースの「インド国民軍」のシンパであったことが疑われている。戦後の日本におけるパル顕彰の政治的動向の検証も行っており(岸信介の役割を重視している)、パルの「神話」形成過程も示している。パル単体を対象とした日本語の研究では現状唯一のまともな(学術的水準を満たす)成果と言える。
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カテゴリ:
評伝
- 感想投稿日 : 2017年5月5日
- 読了日 : 2017年5月5日
- 本棚登録日 : 2017年5月5日
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